REPORT

「神戸市のクリエイティブディレクターって何?」
天宅正×平野拓也トーク・イベント

兵庫県
神戸市の都市戦略であり、ユネスコにも認定されている“デザイン都市・神戸”。その取り組みの一環で、市の役職としてクリエイティブディレクターのポジションが設けられたのが2015年。このプロジェクトは行政のデザインの基礎力を上げる、という全国的にも新しい試みなのだが、今回のトーク・イベントはタイトル通り、そもそも行政におけるクリエイティブディレクターとは? その役割とは? を紹介するというもの。

登壇したのは2017年からクリエイティブディレクターに就任中の天宅正さん(写真左)。そして2018年6月に就任されたばかりの平野拓也さん(右)。おふたりともデザイナーであり、天宅さんは地元・長田区出身、そして平野さんはこの就任を機に山形から神戸へ移住されたのだそう。

約120分に渡ったトークは、まずクリエイティブディレクターという仕事の紹介からスタート(急遽、初代クリエイティブディレクター山阪佳彦さんもゲスト登壇)。休憩を挟み後半はデザイナーとしてのスタンスや考えなどを語り、最終的にはそれぞれのパーソナリティまでをうかがえる内容となった。ともかく、会場となったデザイン・クリエイティブセンター神戸(KIITO)のカフェは満員御礼。その期待と関心の高さにはまず驚かされた。

180620_雛形_087

デザイン・リテラシーを
高める
という役割

天宅 正(以下、天宅):まず神戸市クリエイティブディレクターという仕事の紹介をさせてもらいたいのですが、これは市役所の中で、主に市職員の方たちのデザイン・リテラシーを高めていく、という仕事です。単純に言えば、職員の方たちの普段の仕事の中でのちょっとした工夫や、市民の方により良い事業やサービスを提供する際にデザインの視点を入れていく、というものです。僕が就任する前は山阪佳彦さんが担当されていたんですが…(客席に向かって)山阪さん、いらっしゃいますよね? ちょっとこちらに来て話してもらえませんか?

山阪佳彦(以下、山阪):こんばんは。

天宅:僕が2017年に就任するまで、お一人でクリエイティブディレクターを務めていた山阪さんです。今日はその仕事のご紹介と、平野くんが就任したばかりなので彼の紹介を含めて進行していければ、と思っています。あと今日はお酒も持ってきましたので、みなさん飲んでいただければ。どうしても緊張するので(笑)、ちょっとユルい雰囲気でお話できれば、と思っています。

平野拓也(以下、平野):よろしくお願いします。

天宅:今日ふたりとも白いシャツなので市役所風に見えてるかもしれませんけど(笑)たまたま、です。

平野:(笑)

会場では天宅さんがパッケージデザインを担当した、じゃがいも焼酎「北海道 清里」が振る舞われた。

会場では天宅さんがパッケージデザインを担当した、じゃがいも焼酎「北海道 清里」が振る舞われた。

天宅:では、さきほどデザイン・リテラシーと言いましたが、その業務としては例えば水道局やこども家庭局、環境局など、さまざまな局が抱えている悩みの相談を受けてデザインの視点からアドバイスをするというものです。

平野:そうですね。

天宅:ひとつ勘違いしないでいただきたいのは、僕たちは基本がそれぞれデザイナーなんですが、クリエイティブディレクターの仕事はなにか制作物を作る、ということではないんです。実際に作るのはあくまで神戸市で活動しているデザイナーやクリエイターの方たちです。案件によっては、神戸市外におられる方たちにも依頼します。僕らは基本的に制作の流れを作って、市役所の方たちと計画を立てていく、という仕事ですね。

平野:そうですね。山阪さんは在任されていたとき、どのようなお仕事をやられていたんですか?

山阪:外向けのことも大事なんですが、それ以前に内側の意識がぜんぜんダメでした。例えば名刺。神戸市役所に入ったときに1週間で100人くらいの方と名刺交換をしたんです。みなさん神戸市の職員の方たちなんですが、そのデザインがバラバラだったんです。同じ局でも違う名刺だったり。それぞれ名刺ソフトなどで作っている方がたくさんいました。だから市役所のPCに入っているフォントを使って、誰が作っても同じデザインになるフォーマットを作りました。市役所はいろんな局があって縦割り、とはよく言われますが、神戸市役所は局が違っても横で繋がっています、ということが伝わったらいいなぁ、と。

_meishi_hosei

写真提供:デザイン・クリエイティブセンター神戸

天宅:なるほど、いい話ですね。

山阪:ありがとうございます(笑)

天宅:僕らの日常業務としてはいろんな局の職員の方から相談を受けることで案件によってボリュームが違いますが、ひとつの議題で約1時間ですね。

平野:今、ふたりで1日に5〜10件ほどの案件をいただいて相談しています。

天宅:ちなみに2015〜2018年の現在までの相談は367件。それと、審査会というコンペやプロポーサルで事業者を選ばせてもらうことも重要な仕事のひとつですが、それを含めると合計456件の案件がありました。山阪さんがおひとりでやられていた就任当初からの2年間、大変だったんじゃないですか?

山阪:そうですね。最初はこんなスケジュールなんだ!?と驚きましたが、でもそういうもんなんだ、と。僕のときはひとつの案件の相談は約30分〜1時間で、市役所内の仕事だけじゃなくて、その当時は外郭団体や関連企業に話をしに行く機会も多くて。週4日勤務でしたがけっこうパンパンでした。今ふたりは(勤務しているのは)週に3日?

天宅:そうですね。

初代クリエイティブディレクターの山阪佳彦さん(右)も急遽登壇。

初代クリエイティブディレクターの山阪佳彦さん(右)も急遽登壇。

天宅:僕が就任したときは前任の山阪さんがおられたので、市役所の方たちはクリエイティブディレクターとの接し方もすでに分かってらっしゃる感じで。

山阪:僕のときはまだ手探りで、今でもそうだと思いますがクリエイティブディレクターのスケジュールを管理してくださる方もいたんですが、同じく手探りだったと思いますね。当時は言われるがままに審査会へ行き、市役所内の相談に応じるという感じで。

平野:山阪さんが就任されていたときは(市役所の)中にデザイナーのような役割で入ってる方はおられたんですか?

山阪:デザイン都市推進部(2018年度から政策企画部産学連携課創造都市担当)では、デザインの相談を受けていたので、そういう方はいらっしゃったようですが、職員なので専門職ではなかったようです。僕も3年間、他の職員の方たちと机を並べて関わっていると、12時になったら昼ごはんで13時になったら席に戻るという、きちんとした習慣も身につきました。

平野:僕もデザイナーとしてになりますが、正直そのあたりはユルくていいじゃん?って思っていたんです。でも職員になって組織の中に入ると、そういう厳しいところも必要だと思いました。でも、その反面もうちょっとゆとり(笑)があってもいいんじゃないかなとも。

山阪:そう思いますよね。みんな真面目過ぎるかもしれないですよね。

平野:案件が多いということもあり、なおかつきちんと確認していくことが重要で。小さな部署でもいろんなことを共有することが大事だったりするので。

天宅:そうですね。

平野:だから、そう(真面目に)なるのも分かるというか。話が変わりますが、そういえば僕らはこのクリエイティブディレクターの仕事以外、週の4日はなにをしているのか、話してませんでしたね。

※ここで急遽登壇してくださった山坂さんが退席

天宅:そうですね。まず、僕は週の3日は神戸市にいて、あと4日は東京にいてグラフィックデザイナーとアートディレクターの仕事をしています。それはクライアント、つまりいろんな会社さんからデザインの依頼を受けてポスターやマークなど、グラフィックを中心にさまざまなデザイン物を作っています。

「銀座芋人」:銀座のビルの屋上で収穫された芋を使った焼酎のパッケージ。

「銀座芋人」:銀座のビルの屋上で収穫された芋を使った焼酎のパッケージ。

天宅さんがデザインされたフルーツの形をしたメモ。その名も「KUDAMEMO」の紹介も。

平野:僕は山形にいてフリーランスのグラフィックデザインを中心にやってたんですけど5月の末に神戸に引っ越してきました。地域に関わるデザインの仕事が多くて、山形だけでなく秋田や岩手、宮城、埼玉、東京、大分、福岡などの仕事をしていまして。なので今後はデザイナーとしても(クリエイティブディレクターの仕事だけでなく)神戸の仕事もしていきたい……です!(笑)

Dance event_logo

「ダンスと音楽」のイベントロゴ

hirano_2

「陸前高田ミーティング」のフライヤー

クリエイティブディレクターとして
どんなことがしたい?

天宅:この6月からふたり体制でやっているんですが、クリエイティブディレクターとしてどんなことしたいですか?と聞かれることが何回かあったんですが。

平野:そうですね。

天宅:僕としては、“自らなにかをしたい! 個人として何かを残したい!”というわけではないんです。というのも市役所のみなさんから、神戸市が抱えている社会問題だったり課題を聞いて、それに対しデザインの視点からきちんと反応したいと思っていて。だから、自分から神戸市はこれをやればいい、ということはなく、市役所や市民のみなさんの声を聞いてその都度反応していきたいな、と思ってるんです。平野くんはそのあたりどうです?

平野:僕も同じです。僕は今32歳なんですが、一般的には自分を表現したい時期というか。周りのデザイナーを見てもガツガツ賞を獲りにいったり、大きな仕事をしたい時期だと思うんです。でも僕はそういう気持ちがほとんどなくて。というのも以前勤めていたアリヤマデザインストアで、(アートディレクターの)有山(達也)さんに、デザインする以前にまず人としてちゃんとしてないとデザインをやる価値ない、って言われたことがあったんです。

天宅:はい。

平野:それは、デザインはなんのためにあるのか?と問われたようなもので。今、グラフィックデザイン業界の中では自分の表現としてデザインを作品的に作り過ぎてしまって、なんのためのデザインなのか? クライアントのためなのか? 社会のためなのか? よく分からないものがすごく多いと思うんです。それはデザイナーとしてほんとに良くないと思ってますし、自分がそうならないように、とはずっと思っています。なので、このクリエイティブディレクターの仕事も市役所のデザイン・リテラシーを上げて、それが結果的に市民のみなさんに還ればいいと思っています!

天宅:そうですね。

平野:クリエイティブディレクターとしては他のデザイナーに仕事をお願いしますよね。でも正直、自分もデザイナーなので自分でやりたいっていう気持ちもちょっとはあります。けど、クリエイティブディレクターの仕事として、どうすればその案件が最終的にいちばんいい状態になるか? ということを考えています。まだ(就任して)2、3週間ですけど、そう考えています。

KIITOカフェは市職員や地元のデザイナーやイラストレーター等、約50名の参加者で満員。テーマへの関心の高さがうかがえた。

KIITOカフェは市職員や地元のデザイナーやイラストレーター等、約50名の参加者で満員。テーマへの関心の高さがうかがえた。

180620_雛形_064

天宅:まだ間もないですがクリエイティブディレクターの仕事はいかがです?

平野:極端に言うと、僕の仕事はなんでもいいんです。というのも昔、浦安や埼玉の工場の深夜バイトをやってた時期があったんです。流れ作業です。

天宅:デザイナーとして食べていけない時期に、ですね。

平野:正直に言うと、最初はその工場の仕事をナメてたところがあったんです。でも働いていくうちに、社会のためになる可能性があるなら、どんな仕事でも価値があるし、どう捉えるか?によって仕事の価値を高められる、と思ったんです。

天宅:どういうことです?

平野:自分が置かれた場所でできることをやるしかない、ということです。僕は個人としてはデザイナーですけど、編集とか写真とかイラストの仕事もやったりするのもその経験からです。もちろん僕よりプロフェッショナリティを持つ方と一緒にやりたいですけど。

180620_雛形_024

天宅:そういうところで、クリエイティブディレクターとしてはまず神戸市のクリエイターを知ることが大事ですよね。

平野:はい。ぜひこれからたくさんコミュニケーションできれば、と思っています。

天宅:僕もまだまだクリエイターの方と触れ合えていない部分もあるので、こんな場でトークをさせてもらうのはありがたいですよね。

180620_雛形_080

180620_雛形_028

常識を疑ってみることも
仕事かもしれない

天宅:では、ここで会場で質問のある方はいらっしゃいますか? そちらの方どうぞ。

——神戸市役所に入られて変だと思ったところはありますか? もしくは良いところは?

平野:市役所ってもっとお堅いイメージだったんです。僕は椅子の背もたれに寄りかかって考える癖があるんですけど、そういうことをしたら怒られるのかな、と思ってたんですが……みなさん良いひとたちで。

天宅:(笑)

平野:あと、みんなで餃子を食べに行く“餃子部”っていうのに誘っていただいて。市役所の方とかKIITOの方とかが混じってるんですが、そういう場でお話したりするのはすごくいいなぁと思ってます。そもそも内側に入ってこういう仕事をさせていただけることで、デザイナーとして自分の幅も広がりそうな気もしていまして。

天宅:ちょっと回答になっていないかもしれませんが、僕としてはいい意味でも悪い意味でも、みなさんとても真面目というか。例えば仕事とプライベートの線引きが分かれている、それが変だとは言わないですけど、僕らのようなデザイナーはあまり線引きがない人が多いのかもという印象があって……

平野:そうですね。話がずれるかもしれないんですが、僕はふだんデザイナーとして仕事をしているときはお昼寝タイムを1時間くらい入れるんです。その方が体力的にも効率的にも良いんです。科学的にもそう言われていますし。だから、もし僕がお昼寝タイムを市役所に提案したとしても、決してフザケているわけではなく真面目なことなんです。そういうお昼寝、なんて言うんでしたっけ?

天宅:シエスタ?

平野:そうです、そうです。シエスタを取り入れてみてもいいかもしれません。お昼寝はダメ、というような一般常識を疑ってみる、ということも僕らのようなクリエイティブディレクターの仕事かもしれないとも考えています。

天宅:なるほど。そろそろ時間ですね。みなさん、今日はありがとうございました。

180620_雛形_056180620_雛形_057

写真:関 愉宇太 文:中村悠介

PROFILE
天宅 正/てんたく・まさし
アートディレクター、グラフィックデザイナー。1978年神戸市長田区生まれ。東京藝術大学美術学部デザイン科卒業 同大学大学院デザイン科修了後、デザイン会社「ドラフト」入社。プロダクトプランド「D-BROS」にてブロックメモ『KUDAMEMO』を制作。2016年からフリー。北海道、秋田、新潟、長野、東京銀座、島根など、地域へデザインでの貢献に取り組む。2017年6月より神戸市役所2人目のクリエイティブディレクターとして就任。

平野拓也/ひらの・たくや
アートディレクター、グラフィックデザイナー。茨城県出身。東北芸術工科大学プロダクトデザイン学科卒。東京藝術大学修士課程視覚伝達研究室修了。アリヤマデザインストア勤務後、大分県事業にてブランド開発・デザインに携わり、「山形ビエンナーレ2016」デザイナー&アシスタントキュレーターを担当。現在、フリーランスで活動しつつ、神戸市クリエイティブディレクターとして勤務。http://takuyahirano.tumblr.com/

KIITO NIGHT  vol.21
「神戸市のクリエイティブディレクターって何?」
日時:2018年6月20日(水)
場所:デザイン・クリエイティブセンター神戸(KIITO)カフェ
主催:デザイン・クリエイティブセンター神戸(KIITO)
http://kiito.jp/

(更新日:2018.08.09)
LATEST ENTRIES

ARCHIVE

COLUMN

RECOMMEND

TAG

INSTAGRAM