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1368を登らない理由があるとすれば【香川県・金刀比羅編】

80年から90年代、スキー場や観光地で大流行した、ファンシーなイラストが描かれたキーホルダーや置物。リアルタイムを知る人なら「コレ持ってた!」と叫ばずにはいられない懐かしいおみやげたちを、“ファンシー絵みやげ”と命名し、日本各地で収集・研究しているのが山下メロです。絶滅の危機に瀕するおみやげ雑貨とストイックな裏話を一緒にお届けします。

vol.8 1368を登らない理由があるとすれば【香川県・金刀比羅編】

今回は、香川県・琴平町にある“こんぴらさん”こと「金刀比羅宮(ことひらぐう)」付近で販売されているファンシー絵みやげを紹介いたします。「金刀比羅宮」は、参道の1368段におよぶ長い石段が有名ですが、神社の境内までは両側に土産店が軒を連ねております。その中で保護した個体をご覧ください。

【素材】konpira

ピンクの水玉模様に「金刀比羅」のタイポグラフィがかわいいキーホルダー。ファンシー全盛期は、塗装した金属にイラストを印刷したものが主流となるため、このように金属の質感で立体的なものは少し前の時代の物と思われます。純国産のキャラクターが確立されるより前の、海外文化の影響が強いメルヘン志向のチャーム付き。

【素材】KOTOHIRAのコピーのコピー幕末期の侠客・森の石松が親分・清水次郎長の代参で金刀比羅へ来たとされるため、キャラクター化されています。通常は、その土地出身者か、何らかの事を為した著名人がキャラクター化されますが、あまり縁がない石松の多用されていることにより、キャラ不足が浮き彫りになっています。

【素材】金刀比羅

いわゆる“カップルもの”。男女両方をターゲットにできて、なおかつ恋人同士でおそろいで買うなど、記念品にもなる定番の商品。小判型をしていますが、下駄をモチーフとしていて、裏に下駄の歯があり、穴には鼻緒として紐が通っていたものがなくなってしまってます。

【素材】鍵

キーホルダーは鍵に付けるものだけあって、おみやげに限らず鍵の形をした商品が多い。こちらは上の部分がハート型になっており、加えてピンクの目立つ色使いと、まさに女の子向けの商品。帆の“宝”の文字が“金比羅”の“金”になっている部分にも注目!

【素材】人形

当時、フロッキー加工の擬人化動物のお人形「シルバニアファミリー」がブームになり、似たような商品が溢れました。こちらもその時流に乗って作られたと思われます。白無垢花嫁なのは、小柳ルミ子さんのヒット曲で瀬戸内海が舞台とされる「瀬戸の花嫁」から。ヒット曲だけで商品を作るスピード感から、当時の勢いがうかがえます。

【素材】shikoku_kushi

左から高知の坂本龍馬、香川の森の石松、愛媛の坊っちゃん、徳島の阿波踊りと、豪華な顔ぶれのコーム!このように県をまたいでオールスターが揃う土産は珍しい。また、瀬戸大橋が背景に描かれた商品はほかにも多く、ファンシー絵みやげ全盛期の1988年に開通した瀬戸大橋によって、新しい商品がたくさん作られたことが分かります。

 

お土産やさんの特殊な営業時間

保護活動にて色々な土産店を調査しておりますが、その中で“罠”ともいえる特殊な土産店と営業時間についてご紹介いたします。

例えば、看板に大きく「おみやげ」と書かれていても、店内に土産は何も置いていない場合がよくあります。かつての土産店が看板をそのままにして業態転換していると、調査は困難を極めます。

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逆に、外観が「日用品店」や「釣り具店」なのに、土産を売っているというケースもあります。湖や海のそばでは釣り具用品がメインだったり、周辺住民向けの日用品の奥に土産が隠れていたりするので、一見土産店ではなくとも注意が必要です。

 

営業時間はさまざまですが、概ね8時~16時あたり。以前もこの連載で紹介した奈良県の猿橋商店街のように修学旅行生の来る時間に合わせる例や、夜出歩くスキー客向けに日が落ちてから店を開ける温泉街などもあり、1日で複数の観光地を回る場合は、それらを考慮して計画を立てることが要求されます。

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「金刀比羅宮」では、早朝から参道の石段手前の土産店を調査しましたが、朝10時になっても開いていない店も。ファンシー絵みやげ収集に漏れがあるといけないので、帰りに立ち寄ることにしました。

 

長い参道の石段も、両側にずっと土産店が続くため、知らないうちに365段目の大門まで到達していました。しかしこの先には土産店がなく、開店前だった土産店を見るには、785段目の本宮、1368段目の奥社まで登っている時間はありません。

 

石段の下まで戻った正午近く、閉まっていた店がやっと開いてました。しかし、入店早々「もう閉めますよ」と耳を疑う一言。他の店より遅い開店で、なぜそんなに早く店が閉まるのか疑問に思いつつも、急いで店内を調査。しかし、「早く決めて」とさらなる催促。今にもシャッターをおろされる勢いの中で、思わず私は店の人に営業時間を尋ねました。そしてその答えに私は言葉を失いました。

 

「今日は友達と約束があるの」

whiteout

!!!!

 

 

ファンシー絵みやげ保護活動記
山下メロ

やましためろ/ファンシー絵みやげ研究家。80年代の庶民風俗を研究。特に観光地のファンシーイラストが描かれたお土産雑貨=「ファンシー絵みやげ」を収集・研究しており、各種メディアで保護を訴えている。訪問した土産店は1000店を超え、所有するファンシー絵みやげは4000種を超える。オリジナルiPhoneケース販売中。ウェブサイト:ファンシー学院

(更新日:2016.03.16)

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