ある視点
80年から90年代、スキー場や観光地で大流行した、ファンシーなイラストが描かれたキーホルダーや置物。リアルタイムを知る人なら「コレ持ってた!」と叫ばずにはいられない懐かしいおみやげたちを、“ファンシー絵みやげ”と命名し、日本各地で収集・研究しているのが山下メロです。絶滅の危機に瀕するおみやげ雑貨とストイックな裏話を一緒にお届けします。
vol.9 ALL湯NEED伊豆LOVE 【静岡県・伊豆半島編】
今回は、静岡県の伊豆半島。たくさんの温泉と海水浴場があり、「伊豆シャボテン公園」や「熱川バナナワニ園」に代表される施設も多くあります。とりわけ有名なのは“伊東に行くなら~♪”の「ハトヤホテル」でしょうか。個人的には、数少ないファンシー絵みやげコレクター仲間と保護活動に行った、思い出深い場所です。
三角形の穴の部分が白く、そのため経年変化で樹脂の部分が黄色くなっているのがよくわかるキーホルダー。この年代のものは黄変してしまっているものが非常に多いため、今ではこちらのほうに愛着がわき、ちょっと黄色いぐらいがカワイイ~☆……と思えるようになりました。
CDの盤面を模しているところから、CDが発売開始した1982年頃のものであると推測されます。このようなキーホルダーを作るという発想から、「レコードに変わる新しいモノ」として珍しがられていた空気感が伝わってきます。
“THE LAND OF DREAMS”、“ROMANTIC IZU”。このようにポジティブな意味の英文を書くのが当時の流行のようで、特にこの「ROMANTIC+ 地名」という組み合わせは非常に多く、メーカーのブランド戦略というより、もはや常套句のように使用例があります。まさに「Romantic が止まらない」状態。
文房具みやげの中でもなかなか見かけない珍品が、こちらのゼムクリップ。これで挟めば、どんな書類も卒論も、たちどころにファンシーになるという実用的なアイテムです。当時はペンギンを除いて、鳥類がファンシーイラストになることがほとんどなかったので非常にレア度の高い逸品。
竹細工のうさぎさん。目と目の距離が近いところが非常にファンシー。体がどうなっているのか分からないのですが、私は両手を後ろにしてモジモジしている状態だと妄想しております。しかし特筆すべきはこの“IZU”という地名を入れている場所! 確かに入れる場所がないといえばないのですが……。ドーン!と入れている潔さ、好感が持てます。
男子も女子もターゲットにしつつカップルに記念に買わせる、いわゆる「カップルもの」の商品開発の上で避けて通れないのが、「温泉は混浴にせざるをえない」ということ。中でもこちらは金太郎が“SHIITSU REI SHIMASU”なんて言いながら、手に凶器を持って着衣入浴しています。
行き先を決めるための情報収集術
いまでこそ情報をくださる方も増えてきて助かっておりますが、以前は「▲▲▲にファンシー絵みやげが売っていたよ」という情報が皆無で、直接現地へ行って探すしか手段がありませんでした。しかし時間と予算は限られているので、なるべく「行ったけど無かった」を回避するためのお話。
昨年、島根県を訪れた際、駅の観光パンフレットでお薦めされていた石見銀山へ立ち寄ってみました。しかし、新しいお店や新しい商品ばかりで、私が求めているファンシーな絵おみやげはどこにも売っておらず……。聞けば観光地として注目を集めたのが世界遺産に登録された2007年からとのこと。歴史を知らず目的地を決めた私のミスでした。
当時注目されていた観光地を知るには、その時代の「観光情報誌」を読むことが大事なのですが、それが少々厄介。新しさに価値がある「観光情報誌」は、毎年発売され古いものはどんどんなくなっていきますし、資料的価値が見出されるほど古くもない昭和末期のものは古本屋でも取り扱いが少ないのです。その苦労を乗り越えて入手した書籍に並ぶ情報は、とても輝いて見えます。
また、知り合った人に「修学旅行はどこへ行きましたか?」という質問をよくします。ファンシー絵みやげは子供向け商品なので、修学旅行の人気スポットの地名が入った商品が多いのです。
特に小学校の修学旅行では地元からそんなに離れないため、あまりなじみのないローカルな観光地を知るきっかけにも。そういった場所は、中学高校で遠征するような有名観光地ほど商品の回転が速くないことが幸いして、むしろ当時のおみやげは現存していることが多いです。
今回の伊豆では観光パンフレットに翻弄される出来事がありました。ある場所にロープウェーのパンフレットが置いてあり、見ると売店の写真の中にファンシーな暖簾がかかっていたのです。このように情報が得られることに驚き、慌ててロープウェーへ。
しかし、下の駅の売店には売っておらず、となると上の駅の売店……。節約のため偵察は1人で行くにしても、1つの暖簾の生存確認のために往復運賃の数千円かかってしまう……。
しかし見ておかないと後で気になり出して夜眠れなくなると思ったので、乗ることにしました。
しかし、たどりついた上の売店でもファンシー暖簾は見つけられませんでした。
「パンフに載ってた!」と主張するも、
「パンフにそんな写真ない!」との返答。
仕方なくパンフを見せると「あ、コレだいぶ前の版だねえ、運賃も今と違うよ。こんなものまだ置いてるとこあったの!?」
!!!!!!!
このような繰り返しなので、いくら情報を得られようと最終的には自分の目で見るしかありません。もちろん情報は欠かせませんが、あくまで補助的なもの。私は“現場主義”で保護活動を続けております。
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山下メロ
やましためろ/ファンシー絵みやげ研究家。80年代の庶民風俗を研究。特に観光地のファンシーイラストが描かれたお土産雑貨=「ファンシー絵みやげ」を収集・研究しており、各種メディアで保護を訴えている。訪問した土産店は1000店を超え、所有するファンシー絵みやげは4000種を超える。オリジナルiPhoneケース販売中。ウェブサイト:ファンシー学院
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