ある視点
vol.11 韓国団地探訪記|散歩編・その1
〜プロローグ〜
バンドでソウルに入るときは毎回、仁川国際空港から大型のタクシーで向かう。ギターとか着替えで荷物多いし、メンバー、マネージャー、PA、現地のアテンドのスタッフと総勢7、8人での移動になるから電車は不便なのだ。で、僕はこのタクシーがとても好き。韓国のテレビ番組見ながら移動できるってのもあるけど(前回は「韓国のタモリ」と言われる伝説的司会者によるのど自慢番組が流れていた)、何より外を眺めるのが好きなのだ。
窓に映る景色は、成田から東京へ向かう時のそれとはだいぶ違う。横幅のひろ~い高速道路、未開拓の海辺や山々が遠くの方までずっと見渡せて気持ちいい。どーん!としてる。「スケール大きいなーーー」っていつも思う。「やっぱり日本は島国ねー」とか。
車が半島へ掛かる橋を登る頃、そんな景色の中に団地の群れ群れが現れ出す。あ、団地だ、あーまた団地だ~という感じに次々といっぱい見つけることができる。やっぱり、僕としてはすごく気になるわけ。どういう人たちが住んでいるのかな。どういう歴史があって建てられたのかな。土地と同じく団地も、形や規模が日本とはずいぶん違いそう。こういうこと考えるの楽しー。
いつか行ってみたいなーと思っていたんだけど、時は案外早くきた。
去年、2017年の10月末から2週間、僕らシャムキャッツは全10公演に及ぶ東アジアツアーに出た。3カ国をまたぐ旅の最初の国は韓国だったんだけど、めずらしく余裕を持ってスケジュールが組まれていたのだった!スタートからハードだと後半疲れちゃうからね。
で、空いた時間せっかくだから団地を見に行こうぜ~という話が持ち上がったというわけなのである。
ここで話はちょっと過去へ遡る。
シャムキャッツは一度、韓国の「ヤルゲドゥル」というバンドを日本に呼ぼうとしたことがあった。2015年くらいだと思う。
彼らの音は、「音楽をやる」という目的以上の「繋がり」を感じさせるグルーヴを持っていた。僕はなんとなく、自分たちと似たものを感じた。無邪気で、猥雑で、それでいて不思議とまとまりのあるバンド音楽。それもそのはず、後からわかったことだけど、彼らは同じ団地出身の幼馴染で組まれたバンドだったのだ。そういうのって僕すぐ嗅ぎつけちゃうんだ。やっぱりね~と思いながら見たアーティスト写真の背景、団地が写っていた。
招聘の話は途中で頓挫した。交渉を進めている間に、なんとバンドが解散してしまったのだ。理由は詳しく知らない。「仲違いとしか言えない」と聞いただけ。
現在、彼らのうちの何人かは他のバンドで活動をしている。去年僕がハマった「プルネ」もその一つ。韓国でも日本でも共演して、とても仲のいいバンド「パラソル」のドラムのチョン・ウォンジンは元ヤルゲドゥル。
バンドをめぐるこんなような話は、世界中にある。多分ね。
で、だ。
偶然というものは実に恐ろしいもので、今回訪問した団地はそんな「ヤルゲドゥル」の出身地。案内してくれたインギュさんもヤルゲドゥルの友達で、歳も僕とそんなに変わんない。
こんな感じだから、僕は行く前からかなり気持ちが柔らかくなっていた。なんていうか、ドラえもんの世界からキテレツ大百科の世界に行くみたいな、登場人物はみんな違うけど誰かが誰かにすぐ当てはまるような、他の世界に遊びに行く感じ。安心感も、ドキドキも、どっちもある。
これって小さい頃、隣の町の団地へ遊びに行く時の気持ちと一緒だ。
「ドュンチョンアパートメント」へ向かう、眠そうな自分が映る地下鉄の窓を眺めながら僕はそんなことを考えていた。
つづく
写真:山口広太郎
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夏目知幸
夏目知幸/1985年生まれ、千葉県・市川市出身。ロックバンド、シャムキャッツのボーカルとギターを担当。好きな芸人はとんねるずなどなど。好きな食べ物はあんかけ焼きそばとピザ。茶目っ気たっぷり団地メン。
http://siamesecats.jp/
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