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団地のはなし

vol.12 韓国団地探訪記|散歩編・その2


宿のある新村(シンチョン)から地下鉄で東へ約40分、「遁村住公アパート(ドュンチョン・チュゴン・アパート)」のある遁村洞(ドュンチョンドン)駅
に着いた

 

地上に出ると片側4車線の大きな道路が、背の低い建物の並ぶ市街地と団地群とを分けている。ちょっと埃っぽいけれど、よく晴れていい感じの朝。新村や弘大(ホンデ)よりも時間がゆっくり流れてる。

 

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案内してくれたのはインギュさん。彼女は「ドュンチョンアパートメント」の景観とそこにある記憶をアートプロジェクトを通して残そうと活動しているアーティスト。この団地は政府の意向で全て取り壊されることが決まっているんだって。もともと、政府傘下の住宅公社による建築だったけれど、再建築に関しては、住民による組合が再建設を決めて業者に頼んで進めているらしく、営利目的になっているとのこと。

 

住人の立ち退きが済んだら145棟(約6,000世帯)に及ぶビルが全て取り壊され更地になる。その後、新しい団地ができる。

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まずは広大な団地で一番おとなしい、5階建てが行儀よく並ぶエリアへ入った。起伏のある土地の上に計画的に作られた「ドュンチョンアパートメント」は各エリアごとに外観的に特徴が違うんだけど、ここはほぼ平地で、見慣れた印象を受けた。住めるなーって思った。

 

ただ、目に映る全てが「取り壊しを待っている」ものたち。木々は生え放題で、ビルの亀裂ももちろん直されないまま。置いてけぼりの家具や物干し竿がさびしげなのね。花壇のお花も半分野生。

 

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ちょうど引っ越し中の現場に遭遇。ワイルドスタイル!


猫のマークが描かれた横断幕が至るところに掲げられている。ハングルだけど猫のマークはわかる。

 

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「人間は立ち退いても他の場所に住めるけれど、野良猫や野良犬たちはどこにも行けないですよね? だから、動物も一緒にどこかへ連れていって!という住民からのメッセージが書かれてます」と、インギュさん。

 

みなさん知ってるでしょうか、ソウルはノラ猫がいっぱいいます(ノラ猫と同じくらいコーヒー屋も多い)。どいつも人懐こくて、おっとりしている。人間がノラ猫と上手に付き合ってるんだろうなって感じられる。ここでもやっぱり大事にされていた。

 

しかし本当に、どうするんだろう。猫たちだけじゃなくて、こんなにいっぱいある木たちも、全部切られて燃やされてしまうんだろうか。

 

僕が一時期阿佐ヶ谷に住んでいた頃、善福寺川沿いに阿佐ヶ谷住宅という集合団地があった。老朽化で取り壊されて、今は全く違う団地になってる。

 

僕は毎年春になると阿佐ヶ谷住宅でお花見をしていたから、取り壊しを知った時一番最初に考えたのは桜の木のことだった。あの木のその後を、知らないままだったことを思い出した。

 

棟と棟を結ぶ小径は曲がったり交わったりして楽しい。過去に作られた団地からいっぱい学んで、住人が他の誰かに出会いやすいように作られているんだって。僕の住んでいたハイタウン塩浜もそうだったな。懐かしい気持ちになる。植物が多いところも似てる。

 

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インギュさんは伝えたいことがいっぱいあるようだった。敷かれたレンガの形、仕切りに使われる鉄柵の模様、窓の色、外からは分からない間取りのこと、歩きながら絶えず話をしてくれる。側から見ると些細なこと・ものでも、それがこの場所を強く象徴しているんだ。

 

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通訳をしてくれたウォンミから“意味の情報”を聞かなくても、30パーセントくらいは彼女の伝えたいことが分かった。彼女が指差した先のものを見れば、何を言いたいのか、どうしてそれが思い出として残っているのか理解できた。僕も同じように団地出身だからだと思う。歩いているだけで、インギュさんがかつて少女時代にどんな風にここを駆けていたのか想像できた。

 

大きなキリンの滑り台があった公園へ来た。この団地のシンボルの滑り台。すでに撤去されていたけれど、どこにあったのかは地面の色の違いでわかった。大きなものがそこにあった跡。

 

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なんか、遺跡の基礎を見るみたいな気持ちになった。「竪穴式住居の柱の痕跡です」「なるほど〜」みたいな感じ。僕はキリンの滑り台が立っているのを、その跡の上に想像した。イマジネーショ〜ン。

 

インギュさんは「あるもの」が「なくなった」ことを僕に伝えてくれてる。僕の中では「なかったも」のが「あったもの」になっていく。

 

公園の隅で猫が3匹、ご飯を食べてた。

 

インギュさんの声のトーンが少し明るくなって、「手前の黒い猫は“半月ちゃん”って呼ばれていて団地の人気者なんですよ!」と教えてくれた。首元の柄が半円だから半月ちゃん。なんて可愛い名前なの半月ちゃ〜んこっち向いて。

 

 

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もし君がさっきの横断幕のおかげでどこかへ立ち退きになったら、また半月ちゃんって呼ばれたい? とテレパシー送って聞いた。

 

そだねーって言ってた気がする。

 

 

 

写真:山口広太郎

 

団地のはなし
夏目知幸

夏目知幸/1985年生まれ、千葉県・市川市出身。ロックバンド、シャムキャッツのボーカルとギターを担当。好きな芸人はとんねるずなどなど。好きな食べ物はあんかけ焼きそばとピザ。茶目っ気たっぷり団地メン。
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