ある視点

vol.2 むしろ鶏口となるも牛後になるなかれ
ひさびさに田舎に帰っても気のあう友人があんまりいない。家と会社の往復だと新しい友人もできない。同じようなライフスタイルを目指す人たちが共有できる場があればいいのに。
夜は自由な作業場やアトリエになり、週末は音楽をかけてパーティしたり、冬にはみんなで鍋をしたり、時にはライブをしたり写真展を開いたり……。そんな自由な場所があったら地方の暮らしはますます楽しくなるよなあ。
そう思って地元に開いたオルタナティブスペースがあります。今回はその話を。
vol.1で、「昼間の本業(晴耕)と、夜間や休日のクリエイティブな活動(雨読)を組み合わせた晴耕雨読のライフスタイル」について紹介しました。超ざっくり言ってしまえば、「地方は定時で仕事が終わるんだから、仕事は仕事と割り切って、好きなことはその後の時間帯でみっちりやろうぜ」って話です。
じゃあ、その「好きなこと」をするための場所は、果たして自宅だけでいいのか。同じようなことを考える人がいるはずだから、みんなが「雨読」の時間を過ごすため場所があったら、楽しいことをみんなで分け合えるなあ。そういうスペースを作りたいなあ。そう思ってたんです。
で、イメージはあるのだけれど、実際にどう動けばいいかはわからない。そこで、すごく安直に「建築やってる人がいたら、ぼくのイメージを形にしてくれるんじゃないか」と思って、「小名浜_建築」でググってみたら、偶然いたんですよ(笑)。小名浜出身&在住で大学院まで建築をやってたという同世代のドローイング作家が!!
その彼、tttttan(タン)くんにスペースのアイデアを話してみたら、あれよあれよと意気投合。毎晩のように飲んで話してアイデアを膨らませて、物件を探して契約して、そして2011年の5月に完成したのが小名浜の本町通り商店街にある「UDOK.」というスペースです。みんなで「雨読」をする場所なので「UDOK.」。そのまんま。

2011年5月に入居したばかりのUDOK. 開店のための準備もしない。何もないところからみんなで作り始めた
広さおよそ20坪で、家賃は6万円。東京で同じことやろうと思ったら破産します。でも地方だから安い。ハードル低いんです。
最初はぼくとtttttanくんで3万円ずつ負担していたのですが、「ここを日常的に使いたい人は5000円でいいよ」ということにしてみたら、いつの間にか仲間たちが増え、今では15人のメンバーから毎月「部費」をもらって運営しています。この方法なら、誰か1人の負担が重くならないので「持続性」があるかなと思います。5000円ですし。
今のメンバーは、デザイナーやライター、写真家、ドローイング作家に木彫り職人、DJなど、何かしらクリエイティブなことをやってる人が多い。っていっても、みんな昼間はサラリーマン。「空いた時間に自分の好きなことを続けていきたい」って人、やっぱりいるものなんですね。
UDOK.はお店として「営業」しているわけではありません。儲ける必要もないし、集客に困ることもありません。しかしだからこそ「実験的」な試みができるし、まったりと刺激的なことをしかけていけるんです。「営業しない強み」というものは確かにあるんです。風営法も関係ないので、朝までお酒を飲んで踊ってたっていいんです。
UDOK.の着想は、実は上海で得たものでした。上海に「M50」っていうアートスペースがあるんです。もともと紡績かなにかの工場だった建物を外国人たちがアトリエとして使い始め、次第に画材屋や雑貨屋ができ、いつの間にかカフェができ、そこを見に来る人たちも増えるうちに、アートスペースとして認知されていく……みたいな、そんな場所でした。
何かひとつでもおもしろい場所があれば、そのおもしろさが少しずつ漏れ出していくんですね。点でしかなかったものが線となり、そして面になっていく。もちろん、上海の経済発展が後押ししたものではあるのですが、これはおもしろいと思いました。日本に帰って自分の田舎でやりたいと思いました。そして、やってしまったわけです。

その時々のノリで姿を変えるUDOK. さまざまな用途に使える、まさに「広場」のようなスペース
ぼくたちですらできることなので、たぶん、日本のあちこちでできるはずです。もっとこういう小さなオルタナティブスペースが増えたらいいなあと思っています。それぞれの町に2つ3つ。小さな美術館にもなり、小さなカフェにもなり、小さなクラブにもなるような場。大きなハコモノをどーんっと作るのではなく、市民の側から、自分たちで管理できるスケールで、少しずつ場を作っていく。平田オリザさんの言う「広場」に近いかもしれません。
東京だと似たようなことやってる人、多いかもしれません。でも東京だと、よほど突き抜けた場所でないと話題にもならない。第一家賃が高すぎる。でも、地方だと、やってる人もいないから話題になるし、メディアに取り上げられるうちに認知されるようになり、賛同者も増え、東京のほうから「なんかやりませんか?」なんて話が舞い込んできたりもする。
「むしろ鶏口となるも牛後となる勿れ」。
むしろ地方だからこそ、自由に、そしてゼロからものをつくる楽しさを味わえる。まだまだ地方にはスペースがあります。そしてそのスペースは、これからどんどん増えていきます。開業しろ、独立しろとは言いません。そこはあくまで雨読的に。そのほうが、なが~く楽しめると思うんです。
つづく
-
小松理虔
小松理虔/1979年福島県・いわき市小名浜生まれ。大学卒業後、福島テレビに入社し3年間報道記者をつとめ、2007年に上海へ移住。日本語教師、日本語情報誌の編集・ライターなどとして活動後、2009年に小名浜へと戻る。2010年4月にウェブマガジン『TETOTEONAHAMA』を創刊
http://www.tetoteonahama.com/
https://twitter.com/riken_komatsu
https://www.facebook.com/riken.komatsu
バックナンバー
-
vol.1
-
vol.2
-
Vol.3
-
vol.4
-
vol.5
-
vol.6
-
vol.7
-
vol.8
-
vol.9
-
最終回
ある視点
-
それぞれのダイニングテーブル事情から浮かび上がってくる、今日の家族のかたち。
-
一番知っているようで、一番知らない親のこと。 昔の写真をたよりにはじまる、親子の記録。
-
「縁側」店主河野理子どんなものにもある、“ふち”。真ん中じゃない場所にあるものを見つめます。
-
「読まれるつもりのない」言葉を眺めるために、“誰かのノート”採集、はじめます。
-
不確かな今を、私の日々を生きていくために。まちの書店さんが選ぶ、手触りのあるもの。
-
美術作家関川航平ほんのわずかな目の動きだって「移動」なのかもしれない。風景と文章を追うことばの世界へ。
-
徳島県・神山町に移り住んだ女性たちの目に映る、日々の仕事や暮らしの話。
特集
最新の記事
-
ニュース【ウェブマガジン「雛形」更新停止のお知らせ(2022年4月30日)】ウェブマガジン「雛形」は、2022年4月30日をもって、記事の更新を停止いたしました。 (「ウェ […]
-
特集迷いながら、編む。 ーメディアの現在地どんな人にも、暮らしはある。すぐには役に立たないようなことも、いつかの誰かの暮らしを変えるかもしれない。/雑誌『暮しの手帖』編集長・北川史織さん北川史織さん(雑誌『暮しの手帖』編集長)
-
特集迷いながら、編む。 ーメディアの現在地立場をわきまえながら、どう出しゃばるか。「困っている人文編集者の会」3名が語る、本が生まれる喜び。柴山浩紀さん(筑摩書房)、麻田江里子さん(KADOKAWA)、竹田純さん(晶文社)