ある視点

「日常」から作り出す芸術祭

Vol.3 「日常」から作り出す芸術祭

上海で暮らしていたとき、よく街を散歩して写真を撮ったりしていました。古い住宅や、その住宅の窓から突き出た洗濯竿や、その洗濯竿にかけられた真っ赤なパンツや、そういう「日常の風景」がとても魅力的に見えたんです。

 

現地の人からは「んなもん撮って何が面白いんや?」っていつも言われてましたけど、高層ビルや都会的な町並みなら日本にもある。その地元の暮らしぶり、日常の風景にこそ「上海らしさ」が出ると感じていました。日本人の私にとって、彼らの日常には「非日常」の面白さ、美しさがあったわけです。

 

同じような目線で地元を歩いてみると……

 

あるじゃん! 民家の軒下にぶら下がった干物の籠とか、船のペンキで塗られた味のある民家の外壁が潮風で錆びたのとか、そこで猫が伸びしてたりばあちゃんが談笑してたり、そういう日常の風景の中に、今まで気づけなかった美しさや面白さがちゃんとある。今までは素通りしてたけど、日常の中に面白いものが転がってるんだなあと痛感しました。

 

ぼくたちはなにかと「退屈な日常」の中に「お祭り」を求めがちです。でも、見え方や、見せ方や、接し方や触れ方いかんで、ぼくらの日常はいくらでも面白くなる。だから、年に1回の大きなお祭りを待つのではなく、もっと小さなお祭りを毎週末のように自分たちで仕掛けていけば、毎日の暮らしが楽しく、そしてクリエイティブになるんじゃないかと考えました。

 

そんな「日常」をテーマに立ち上げたのが、ぼくたちが年に1回企画している「小名浜本町通り芸術祭」というアートプロジェクトです。前置きが長くなっちゃいましたけど、今回はその話を。

 

小名浜本町通り芸術祭は、毎年10月に2日間だけ開催される市民芸術祭。スケッチや写真、詩、インスタレーションなどの作品を商店街や空き地に展示して、その商店街をまるっとアートギャラリーにしちゃおうというものです。

 

主役はあくまで一般の市民。作品を作るのも、展示するのも、ワークショップを企画するのもみんな一般の市民です。予算がないので著名なアーティストを呼ぶこともできず、写真が得意な人や、スケッチが得意な人、言葉を紡ぐのが得意な人が「作家」となって、自分たちで芸術祭を作っていきます。まあようするに全部手弁当なんです(汗)。

 

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芸術祭の実行委員はUDOK.の人たちが中心になり、ワークショップや作品制作、展示のための準備もまた仕事が終わった後の「雨読」の時間で行われます。ですからこの芸術祭は、ある意味でわたしたちの「雨読活動」の発表会でもあるわけです。

 

ちなみに昨年は、芸術祭のメンバーの1人がプロジェクションマッピングを作成して上映したり、モバイルハウスをみんなでいくつも作ってそれを空き地に並べ、そこでバザールを開いたり、規模もクオリティも上がってきました。芸術家を呼ばなくても、市民がいろいろ思案して得意なものを持ち寄り、なんとかやっちゃうのが小名浜流。シロウトでも、このくらいはできちゃうんですね。

 

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芸術祭自体は2日間ですが、作品を制作するワークショップは毎年春頃から断続的に行われます。朝の小名浜を散歩しながら写真を撮ろうという企画や、まちなかの風景と向き合うスケッチ企画、それから小名浜から連想されるラップのリリックを作ろうなんてワークショップもありますし、小名浜の工場夜景を撮りにいくバスツアーなども企画しました。

 

実は、これらのワークショップは、芸術祭の構想が生まれる以前に行われていたものです。「アートプロジェクトやろう!」がスタートではなく、「日常を楽しもう!」がスタートだったんです。UDOK.を拠点に日常を楽しむイベントやワークショップを繰り返すうちに、どんどん作品が増えてきて、「だったらそれをまとめて商店街に展示しちゃおうぜ」みたいな、そんなノリで芸術祭は企画されています。

 

あくまで「日常」から積み上げられたのが、小名浜本町通り芸術祭。主役は自分たちです。自分たちがアーティストにも、写真家にも映像作家にも、プロデューサーにもディレクターにもキュレーターにもなれる。だから、外からその時だけ著名なアーティストを呼んでくる必要がないので、予算的には非常に助かります。

 

もちろん祭りは必要です。でも、お祭りが終わったあとに「退屈な日常」が戻ってくると思ったら切ないじゃないですか。だからぼくらは「日常」から小さな祭りを作り出して、そして大きな祭りの準備をしていく。つまりなんというか、ず~~っと芸術祭やってるわけですね。

 

小名浜本町通り芸術祭とは、わたしたちの生き方、暮らし方、そのものなのかもしれません。目線は常に、自分たちの日常に向けられています。

 

つづく

 

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写真:2014年10月に開催された小名浜本町通り芸術祭の模様。通りのシャッターに作品を展示したり、空き地にマーケットを作ったり、自由な発想で、通りにアートを盛りつけた。 photo by ひづき

 

晴耕雨読のはなし
小松理虔

小松理虔/1979年福島県・いわき市小名浜生まれ。大学卒業後、福島テレビに入社し3年間報道記者をつとめ、2007年に上海へ移住。日本語教師、日本語情報誌の編集・ライターなどとして活動後、2009年に小名浜へと戻る。2010年4月にウェブマガジン『TETOTEONAHAMA』を創刊
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(更新日:2015.02.27)

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