COLUMN
晴耕雨読のはなし

vol.7 酒に人生を狂わされる!

晴耕雨読のはなし。これまで6回にわたって地域での場づくりについて紹介してきましたが、今回はちょっと趣向を変えて酒の話を。

 

昼間の本業を「晴耕」、夜間や休日の副業を「雨読」とし、それらをゆるやかに社会に接続させながら地元暮らしを楽しもうというのが「晴耕雨読2.0」のライフスタイルである。そんなことを、これまでの記事で紹介してきました。ぼくの晴耕(本業)はかまぼこメーカーの営業マンでしたが、雨読の活動として、ウェブマガジンをやったり、オルタナティブスペースを運営したり、さまざまなことをやってきました。

 

自分たちの場があるとイベントを自由に企画できるので、大小いろいろなイベントをやってきましたが、その中に「福島地酒SCENE」という小さな企画があります。福島の地酒を買って、それに合う料理をつまみつつ、福島の酒はうまいなあ、幸せだなあということを感じるイベントで、「SCENE」と「試飲」がかかってるというね、はい、すいません、ただの飲んだくれイベントです。

晴耕雨読のはなし

酒好きだけが集まる地酒試飲イベント

酒好きだけが集まる地酒試飲イベント

 

なぜ日本酒かというと、きっかけは「晴耕」のかまぼこでした。直売のお客さんに提案するために、オンラインショップで「かまぼこに合う地酒」を毎月紹介してたんです。お酒が好きな方にかまぼこをPRすることで「つまみ」としての需要を引き出そうと考えて、それで、毎月1度市内の酒屋さんを取材して、「このかまぼこにはこのお酒!」みたいな感じで紹介していました。

 

オンラインショップに掲載するのに写真を撮る必要があるので、毎回そのお酒を買うんですよ、自腹で。ぼくが勝手に始めた販促企画なので、上司に「会社の経費で……」とは言い出せず、紹介したお酒はすべて自腹で購入していました。自腹なので、そりゃあ家に帰って飲むわけですが、、、、するとね、あっという間なんです。福島の酒の虜になるのに。

 

晴耕雨読のはなし 

いやぁ、福島の酒ってこんなにうまいのかと思いました。さらに、酒のことを知れば知るほど、それが地域に根ざしていることがわかってきたんですね。面白いことに、地域それぞれに「地元の食材とよく合う酒」があることを知りました。福島県の海沿いと山あいでは、酒の味がちょっと違ってくるんです。

 

例えば、福島県浪江町には鈴木酒造という酒蔵があるのですが(現在は山形県長井市に移転)、そこで醸される「磐城壽」という酒は、長く漁師の祝い酒として愛飲されてきました。漁師が飲む酒なので、自然と魚料理に合う酒になり、しかもカツオなどの赤身の魚にも負けない「力強さ」もある。酒というのは、自然とその地域の人が気に入る、あるいは、その地域の人がよく食べる食材に合うように作られていくもんなんですね。

 

浪江町の銘酒「磐城壽」山廃純米酒

浪江町の銘酒「磐城壽」山廃純米酒

 

そんなことがきっかけになり、「せっかくいい酒飲むなら仲間たちと飲もうじゃないか」ということで、UDOK.を会場にして実験的な日本酒試飲イベントをやることになりました。本業のほうでは日本酒の試飲会なんてなかなかできません。でもこうした副業的な「雨読」のフィールドだからこそ気軽に企画できる。ある意味での雨読の「勝手さ」が、実は自分の可能性や視野を大きく広げてくれるんですね。

 

試飲会の立ち上げメンバーには、小名浜に帰省してダイニングバーを開業しようという梅谷祐介くんという男性がいました。たまたま市内の別のイベントで知り合ったんですが、彼もまた福島の酒に魅せられた1人。すぐに意気投合し、彼も交えて地酒イベントをやるようになりました。

 

そしてその梅谷くん、昨年8月、小名浜町内にめでたく「SAKE&SAKANA MUME」というお店をオープンさせたのですが、なんと、オープン初日からぼくもその店で働くことになりました。週に2回程度の「バイト」ですが、スタッフとして関わらせてもらうことになったんです。

 

梅谷祐介マスター(左)と、最初の試飲会。

梅谷祐介マスター(左)と、最初の試飲会。

 

昼間も普通に仕事をしていたので体力的にはけっこうキツかったですが、お客さんとの会話はとても楽しいですし、梅谷くんの料理や福島の地酒を通して、より深く「生産と消費」の関係について考えるようになりました。梅谷くんの仕入れは、毎日生産者の畑を巡り、時には自分で収穫まで手伝うほどの徹底ぶり。素材を生かすシンプルな料理が多く、料理に合わせる酒のセレクトがまた小憎たらしいほどうまい。そして、食材についてしっかりと説明をするんですね。

 

お客さんは、酒と料理、そしてそれらにまつわる蘊蓄を楽しむうちに、面白楽しく地域のことを知り、生産者との距離を縮めて、そして満足してお金を払って帰っていくわけです。「製造」に徹するかまぼこメーカーでは味わえない、とてもダイナミックな関わり方だと感じました。その距離の近さがとてもいいなあ、酒っていいなあと、バイトに出るたびに毎回いい気分になって、ついついご褒美にお酒も頂いちゃってました。

 

ぼくにとっては、日本酒の試飲イベントも、このバイトも「雨読」的な活動です。あくまで「晴耕(本業)」はかまぼこメーカーの営業マンなのです。しかし、雨読の活動というのは、こんなふうに本業以上に当事者性が生まれてしまうことがある。純粋に興味本位であり、「楽しいからやっている」からかもしれません。それに、地域の食に関わる人たちとのつながりができたのもよかったですね。

 

こうした「食の雨読」ともいうべき活動が、地域と食と自分の関わりをもう一度見直すきっかけになり、今年の3月末で、かまぼこメーカーも辞めちゃいました。別に料理人になるわけでも杜氏を目指すわけでもないですよ。ただ、生産と消費のあり方や、地域の食との向き合い方を考える中で、もっとベターな働き方があるんじゃないかと思うようになったんです。

 

ただの興味本位で始まった試飲イベントですが、自分の人生を変えるキーパーソンと出会うこととなり、そしてそこから生まれた変化が最終的に転職までさせてしまうわけですから、「雨読」というのはやはり面白い。

 

市内の美容室でも試飲イベントを開催。

市内の美容室でも試飲イベントを開催。

 

やはり、「雨読」とは「晴耕のオルタナティブ」になるものなんだと思います。別に転職を薦めるわけではありません。ただ、こうして二足三足のわらじを履くような働き方が、常に自分を新鮮にしてくれる。それだけでなく、次に向かうべき道しるべを示してくれるし、地域との接点を作ってくれるんですね。それがとても面白い。

 

何より、その変化の真ん中に福島の酒があるというのがなんともうれしい。こういうのを酒屋さんでは「酒縁(しゅえん)」などと呼んだりするようですが、地酒とは、このように地域と食と自分を結びつけてくれるものなんですね。こういうよい変化なら、「酒に人生を狂わされる」のもいいかもしれません。

 

晴耕雨読のはなし
小松理虔

小松理虔/1979年福島県・いわき市小名浜生まれ。大学卒業後、福島テレビに入社し3年間報道記者をつとめ、2007年に上海へ移住。日本語教師、日本語情報誌の編集・ライターなどとして活動後、2009年に小名浜へと戻る。2010年4月にウェブマガジン『TETOTEONAHAMA』を創刊
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