INTERVIEW
  • 比べる自分に「おわり!」を告げる。「好き」に忠実に、軽やかに。 <鳥取県・伯耆町>

鳥取県西部エリア

私の、ケツダン

「決断」というと、ちょっと重い。何かを決める理由なんて、きっとひとつではないから。流れる日常の中で、ふとした気付きが連なって、もしかすると自分でも自覚していない体験が重なり合って、人は動くのかもしれない。常套句ではない、正直で小さな頷きたち。鳥取県西部に暮らす9名のそんな「ケツダン」を集めていきます。

比べる自分に「おわり!」を告げる。「好き」に忠実に、軽やかに。
<鳥取県・伯耆町>

鳥取県
長谷川美代子さん
アクセサリー作家
居住地: 鳥取県米子市→岡山県岡山市→鳥取県米子市→鳥取県伯耆町
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気が合うということは、趣味や嗜好が似ているだけでなく、相手が自分にないものを持っているから、ということもある。

真鍮アクセサリー作家の長谷川美代子さん(以下、みよこさん)は、人からどう見られるかではなく、ただつくることを楽しみ、つくることで現実と繋がっている。かつて自分の店を持っていた頃も店がなくなった今も、彼女は変わらず自分の好きなものに囲まれることで満たされている。

みよこさんと私は、1年半前に彼女の店で出会った。作家という肩書きも相まって眩しく見えたみよこさんは、仲良くなってみるとコテコテの米子弁を喋る、純粋につくることが大好きな天真爛漫な女の子だった。人の目や評価を気にしてしまう私は、自分の「好き」に忠実なみよこさんと話していると、浄化される気がしてホッとする。

感覚で捉えるみよこさんと、頭でっかちな私。正反対のようで馬が合う二人の関係を通して、自分に素直に生きることについて考えてみた。

写真:波田野州平 文:中山早織

「あたし生きてる!」
漠然とした“好き”が形になる

伯耆町には、米子駅から車で20分も走れば差し掛かる。壮大な大山を麓までのぞめるけれど、町からも近い。便利さと自然がほどよく融合した場所である。
みよこさんは、何かをしたいときには条件を紙に書くと理想通りのものに出合えるという。家を探すときの条件は、広い庭、川が近くにある、隣との距離がある、台所が広い、自分の作業場がある、など13個。伯耆町に見つかった今の自宅は、その全てが満たされている。

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みよこさんと私の出会いは1年半前。私が東京から鳥取へ移り住んで3年半を迎えた頃だった。当時彼女は「CADEAU(カド)」という手づくりのアクセサリーと多肉植物の店を米子で開いていた。それまで私は、ものは買うものだと思っていた。壊れたら捨てて新しいものを買う。それが当たり前だった。鳥取に来て、東京のようになんでもはないけれど、だからこそ自分たちでものをつくり出す人に出会って衝撃を受けた。アクセサリーはもちろん、家具でもおもちゃでも自分でつくり出してしまうみよこさんと出会った私は、どこか芸能人と知り合ったような鼻高々な気分だった。私がそんなミーハー心で近づいていたと知ったら、みよこさんは驚くだろうか。

みよこさんは米子生まれの米子育ち。高校卒業後、岡山県にある専門学校へ進んだ。彫金の専攻ではあったが、ものづくり科という陶芸・木工・プロダクト等なんでも好きなことをさせてもらえる自由な学校だったという。小さい頃からつくることが好きだったみよこさんが、つくることを学びたいと思ったのはどういうきっかけだったのだろうか。

「お店で売ってるアクセサリーを見て、ここをこうしたらもっとかわいいのになって思っとったけど、どうしたらそれができるかがずっとわからんかった。進路を決める時に高校の先生に相談したら、こういう学校があるよって教えてくれたけん、そこに決めた。
それで岡山の学校に行ったら、やっと『あたし生きてる』って感じがした。高校生まではずっとなんかなあってモヤモヤしとったけん、これだ!っていうものを見つけて生き返った。古いものが昔から好きだったけど、岡山で古道具っていうことばを知って、あたしが好きなのは古道具なんだってわかった。岡山の友達はズバッと言ってくれるけん、教えてもらえることも多かった。いまでも仲良くしとる」

漠然とした「好き」をどう表すかがわからず鬱々としていたが、表現方法を知ることで水を得た魚のように人生が動き出す。生き返るって、良いことばだな。鳥取に来たことで自身や故郷東京を客観的に眺めることができ、自分らしく生き返ったと感じている私は、実感を持ってその言葉を噛み締めた。

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大切なことは人に決めてもらう。
委ねることを楽しむ

みよこさんは、専門学校は高校の先生に、岡山での一人暮らしの家は両親に、店の物件は父親に決めてもらったという。初めて聞いた時、私は驚いた。大切なことこそ自分で決めるものだと思っていたからだ。これは一体どういうことなのだろう。

「人に決めてもらうと、自分じゃ選ばなかった道を教えてもらえるから。自分が最初は興味ない場所だったとしても、つまんないってことはあまりないかも。委ねたら楽しめる。
岡山では、親が借りてくれた家が専門学校から遠くて、最初はえーって思ったけど、自転車で通うおかげで、大好きな古道具屋さんとか色々な所を知れたから、結果的に良かったなって。米子で店の物件を探した時も、家賃が高くて困っとったら、父が知り合いのビルを紹介してくれて。ボロいし、日当りも悪いし多肉植物には向いてないけど、すごく安く好きに使わせてもらえた。自分で決めとったら高い家賃にひーひー言っとったかもしれんけん、あそこでよかったな」

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私だったら、人に決めてもらってもし上手くいかなかったら、きっとその人のせいにしてしまいそうだ。頼ることが苦手な私は、自己責任という一見立派に見える固いバリアを張って生きているのかもしれない。一方でみよこさんは、人に気持ち良く委ねて、そのこと自体を楽しんでいる。早く結論を出さずに、もっとここをこうしたら……と状況を受け入れてその中で楽しむ方法を創造する。しかもそれを頭で考えてやるのではなく、自然とやっている。委ねることに責任を持つ強さを持っている。

「店をやりたいとか最終的な目標はぶれずにあって、そこに行くまでの道のりは決めてもらう感じかな。どう行ったらいいかわからないから、行き方は委ねちゃおうって」

軽やかで、潔い。ステップを踏むようなみよこさんの歩み方を見ていると、もつれて絡まりそうな私の足が少しだけ軽くなる。

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次女を抱くみよこさんのお母さん

次女を抱く、みよこさんのお母さん。

つくることで、現実と繋がれる

「CADEAU」の店は、建物の取り壊しのため2017年に幕を閉じた。現在みよこさんは伯耆町にある自宅で二児の子育てをしながら主に彫金作業をしている。店はなくなっても、みよこさんのつくることへの欲求は終わらない。

「まだまだつくりたいものがあるけん。今は、子どものおもちゃをつくったり、家をもっと過ごしやすくしたい。台所の流し台は、最初は和風の引き扉が付いとったけど、見通しよくしたくて全部取っ払った。子どもと一緒に料理したかったけん、台所の作業スペースは広くした。広すぎて水場までが遠くて大変なんですけどね(笑)。タイルを張って板を敷いて。かわいくできたけん、台所を見るたびに『あ、うれしい』ってなる。

なんでも、買う前にまずはつくってみようって思う。ままごとキッチンも買えばあるけど、あたしが欲しいのはこういうのじゃないんだよって思ってつくった。お金がないけんつくらんとっていうのもあるけど、それも逆に楽しいなって」

最初は和風だったというキッチン。台所のタイルは、長女の好きなチューリップ柄。

最初は和風だったというキッチン。

みよこさんの“つくる”は、「これじゃない」から始まっている。ないことが、生み出すエネルギーに繋がる。私はそもそも、「まずは買う」で育ってきた。売っているものが気に入らなければ買わないし、お金がなければ買えない。そこからの広がりはなかった。ないということは、もっと悲壮感の漂うものだと思っていた。そんな自分が恥ずかしくなるほど、「なければつくる」ってなんて豊かな発想だろう。

「店をやったり物をつくっていると、すごいって褒められることが多くてずっと違和感を感じていた。あたしはただ好きでやってることだけん。
昔は、自分に自信がなくて人と比べる癖があった。お店をやっていても、他の店と比べて悶々としたり。でも、ある人に『あなたって、すごく人と比べるよね。生きづらくない?』って言われたことがあって。初めて会った人だったけど、ずっと誰かに言ってほしかったことを言ってもらえて、すっごく楽になった。あースッキリってなって、そこから比べなくなった。やっと納得する答えが出た、みたいな感じ。自分だけじゃ、一生もやもやしとったかもしれん」

私も、人の言うことをもっとよく聞こうと思った。人って、相手のことを知らないからこそ、客観的に的を得たことを言ってくれたりする。みよこさんは、「人と比べてしまう自分」を人から指摘されたことで、生きづらかった自分を認め、納得できた。自分でもどこかで気づいていたことを人に言ってもらうことで、ストンと腑に落ちた。みよこさんは、端から見える自分についても、時として人に委ねているのかもしれない。

そういえば、みよこさんはよく「この話は、おわり!」と口にする。彼女には必ずおわりがある。納得できて、おわり!となれば前へ進める。みよこさんにも、人と比べていたときがあったのか。親近感を持つとともに、なかなかおわれずいつまでも引きずってしまう私は、おわりと言い切れる潔さに憧れも感じた。

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食べる、寝る、
と同じように、つくる。

3、4日でつくったという、子ども用のままごとキッチン。「娘にはヒットせんかった」とみよこさん。なんと真鍮の蝶番も手作り。

3、4日でつくったという、子ども用のままごとキッチン。「娘にはヒットせんかった」とみよこさん。なんと真鍮の蝶番も手作り。

みよこさんは娘さんへ手づくりのおもちゃをつくって、思ったほど喜んでくれなくても「子どもってそんなもんだよね」と笑顔だ。私だったら、せっかくつくったのに……と思ってしまいそうなものなのに。

「ちっちゃい頃からつくるのが好きで、公園に捨てられている粗大ゴミを家に持って帰って、壊してなにかつくっていた。父も母も働いていて家におらんかったけん、一人遊びの延長だったと思う。縁側でつくって何かができて、一人で喜ぶみたいな光景をよく覚えている。『あ、いいのできた。こんなんできるんだ!』って。褒められたいとかじゃなくて、とにかく自分が満たされた」

タイルは、長女の好きなチューリップ柄。

タイルは、長女の好きなチューリップ柄。

そういうことか、と思った。みよこさんに私の好きなところを聞いてみると、「格好が好き、顔が好き、自分が出産して憧れた助産師って職業をしていることがすごい!」と満面の笑みで答えてくれた。見た目や肩書き。相手の好きなところを聞かれたときに、もし本当にそうだとしても私だったら敢えて口にしなそうなことばかりだ。こう答えたら相手の目にはどう映るか。私はどうしても、そういう思いが介入してしまう。それっぽく見えることば。かっこいい、きれいなことば。無意識のうちにそういう言葉を選んで表に出している自分に気づかされる。私がみよこさんの好きなところは、こんなにずる賢い私に対しても屈託なく接してくれるところだ。利害損得から遠く離れた世界にいるみよこさんと話していると、ホッとする。人の目は気にせず、好きなものは好き。自分にはそれができているだろうか。

「今は、子どもたちと一緒にものづくりをしてみたいなって思ってる。3歳になる長女はあんまり感情を表にださん子だけど、何かをつくったときだけは、『できた!見てー!』ってすごく嬉しそうにするんよね。だけん、他の子たちもつくることで自分を出せるきっかけになる場所ができたらいいなと思って。拾った松ぼっくりでクリスマスツリーをつくったり、買わんでもあるもんだけでつくれるよーって。そういうちょっとしたヒントをあげたりしながら、一緒にやってみたいなと思って」

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みよこさんも、もしかしたら娘さんも、つくることを通して現実と繋がっているのかもしれない。よく見られたいとか、それで商売をしたいとかではなくて、それをやっている時間が楽しいという素直な感情。これはつくる上で一番大事なことだ。ただ好き。ただ楽しい。そういう気持ちは、伝染する。必死の形相でする自己表現ではなくて、食べる、寝る、と同じように、つくる。生きていく上で不可欠な自然な欲求として、つくる。つくるって、本来こういうものだよなあと思った。

「あたし、何かをつくるときは基本的に一日で全部おわらせたいって思っちゃう。つくってできたら、うお〜って満足するけど、またすぐ次につくりたいもんが出てくるけん、早くつくりたくなる。うまくつくれんくてモヤモヤしても、今は雨も降っとるし、これは気候のせいだって思う。そうすると、次の日にはスッキリして元気になって、おわり!」

いい意味で、ずっと顔の前のにんじんを追いかけている人だと思う。食べたらまたすぐ次のにんじんを見つけて追いかける。おわりがあるって、気持ちがいい。

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比べる自分に「おわり!」を告げる。「好き」に忠実に、軽やかに。 <鳥取県・伯耆町>

鳥取県・伯耆町(ほうきちょう)
人口約11000人。西伯郡岸本町と、日野郡溝口町が平成17年に合併し、伯耆町となった。大山の南西部に位置し、北は米子市に隣接。山間地は、肥沃な大地を利用した農業地帯。町の北西部には商業施設や住宅が多く、人口が集中している。伯耆町から臨む大山は富士山のように見えることから「伯耆富士」「伯耆大山」と親しまれている。

鳥取西部移住ポータルサイト「TOTTORI WEST」: http://tottori-west.jp

比べる自分に「おわり!」を告げる。「好き」に忠実に、軽やかに。 <鳥取県・伯耆町>
長谷川美代子さん はせがわ・みよこ/1985年鳥取県米子市生まれ。高校卒業後、岡山の専門学校で彫金を学んだ後、米子へ帰り2013年に真鍮アクセサリーと多肉植物のお店CADEAUを開く。2017年に店を終えてからは、伯耆町の自宅でアクセサリー制作に勤しむ。現在は、真鍮アクセサリーを鳥取県内のセレクトショップで販売したり、子ども向けにものづくりのワークショップを行っている。二児の母。
https://www.instagram.com/cadeau.accessory/

 

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インタビュアー:中山早織
なかやま・さおり/1984年、東京都生まれ、鳥取県在住。助産師、執筆業。大学で心理学を学び、その後紀伊國屋書店勤務を経て、看護師、助産師となる。助産学校進学を機に鳥取へ移住。助産師として働く傍ら執筆活動を行う。寄稿:リトルプレスdm No.2「鳥取という場所で助産師をすること」
http://dm-magazine.com/book
(更新日:2018.11.07)
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