特集 宇都宮ダブルプレイス案内

新しい縁を深めて生まれる “もうひとつの故郷”

“もうひとつの故郷”をもつとはどんなことなんだろう。ここに暮らしたらどのような未来が待っているのか?と想像しながら知らない街を歩いてみたりする。
心に風がぬけるような風景、一目惚れしたかのように心がつかまれた家、こころが響き合う友だちが住む街。いろいろな縁で私たちは街とつながってゆく。

平田唯さんは、平日は東京で働き千葉にある家に帰る。そして週末になると宇都宮に行き、シェアハウス「カマガワリビング(通称:カマリビ)」へ。3つの土地を拠点に、日常を送っている。

宇都宮に通いはじめて10ヶ月、暮らしはじめて5ヶ月。そこには家族がいるわけでもなく、仕事に行くわけでもない。特別な目的はなくても心が通い合う仲間と共に過ごせる時間、そして場所があれば、そこは“自分の街”であり“もうひとつの故郷”となるのかもしれない。

写真:工藤朋子  文:羽鳥靖子

人とつながることが
日常の中に組み込まれている

金木犀が香る、小雨が降る週末の土曜日。普段着姿の人たちが行き交う宇都宮駅には、休日のゆるやかな時間が流れていた。この街は、人と出会える場がとても多い。週末になると広場や寺など街のいたるところでイベントが行われている。駅を降りればジャズコンサートが行われていたり、商店街に隣接するイベントスペースであるオリオンスクエアからは、カラオケを楽しむ老人たちの歌声が聞こえてきた。ひと月前はビアフェスティバルが開催されていて、取材で訪れた私たちもついつい夕方からビールを愉しんでしまった。この広場を自由に活用している人の姿は、いつも大きなエネルギーが漂っている。

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この日、平田さんと待ち合わせした場所は、中華料理店「芳香(ほうか)」。行きつけの店だというこちらは、創業40年ほどの老舗中華店で、平田さんが滞在するシェアハウス、カマリビから歩いて5分ほどにある。暖簾をくぐり扉を空けると、なんとも芳ばしいゴマ油の香りとジュージューという調理している音。そして、人懐っこい笑顔で平田さんが迎えてくれた。

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平田さんお薦めの揚げ餃子とスタッフののりえさん。芳香の料理はすべて、カマリビメンバーのソウルフード。

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ひと口食べると忘れられない、麻婆チャーハン。もう一度宇都宮を訪れたくなる味。

「これ!本当に美味しいんです。熱いうちに食べてください。この揚げ餃子はマヨ胡椒で、焼き餃子は酢胡椒で。のりえちゃん。黒こしょうもお願いね!」

こんな風に、店のスタッフの女性を“のりえちゃん”と呼び、仲睦まじい姿が印象的だった。

平田さんが初めて宇都宮に来たのは、約9年前。前職の仕事の関係で何度も訪れ、1年ほど住んでいたこともある。平田さんにとって宇都宮は働くために訪れる街。5年前、地元千葉の知人から「宇都宮でシェアハウスを始める友人がいるから会うといいよ」と、今のカマリビのオーナー・林さんを紹介してもらう。2年後にカマリビがオープンしたことを知り、改めて林さんに会いに行った。その時に出合ったのがカマリビの住人である後呂孝哉(うしろたかや)さん。こうして、カマリビの住人たちと平田さんのつながりが生まれていく。

「私は、料理を通して人と人をつなげることがやりたくて、5年前に地元千葉で『ひらたばー。』をはじめたんです。最初は、友だちを招いて手料理を食べてもらっていたのですが、それでは物足りなくて、友だちのアーティストを招いたり、生産者を紹介したりとテーマをたてて広げていきました。そうすると、友だちから友だちへと、興味を持つ人たちが集まり、私の知らないところで輪が広がっていったんです。そんな風に人と人が自然とつながって行くのを見ているのが楽しくて。

カマリビで開催しているイベントは、後呂くんが中心になって企画していました。ある時、私がやっている『ひらたばー。』をカマリビでやらない?と、誘ってくれて。それをきっかけに、カマリビの人たちとより深いつながりができて、私は頻繁に宇都宮に遊びに来るようになったんです。

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料理上手な平田さんがカマリビの住人に料理を作ることも多いそうだ。

カマリビのメンバーだけで遊ぶのももちろん楽しかったのですが、イベントでは、新たな人とのつながりが生まれる。自分たちだけで終わるのではなく、外に広げていくカマリビのみんなとイベントを企画することが楽しくて、今年に入ってからはほとんど毎週末宇都宮に通っていましたね。それならばここをもうひとつの拠点にしようと、6月から部屋を借りることにしました」

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春にはカマリビ近くの小川で川床が作られみんなでお花見ができる。

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カマリビの共有スペースには数々行われて来たイベントの写真がたくさん貼られていた。

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住んでみて気がついた
宇都宮の人たちとの心地よい距離感

「今までイベントをいくつか開催して来ましたが、最も印象的だったのは “流しそうめん”。1本が6メートルのロングそうめんを流して食べる。イベントの企画を立ててから、必要な人・モノをさがすために、周りのつながりを駆使して人を誘いました。友だちに軽トラとチェーンソーを借りて、知り合いに竹やぶを紹介してもらい竹を切り、製麺所の社長に6メートルの麺を作ってもらって。知り合いを通してつながると、誰でも快く協力してくれる。そんな人との距離感もこの街の良さなんです」

数々のイベントを企画し、学園祭前夜のような週末を送る中、平田さんとカマリビがつくる輪は宇都宮餃子会の事務局長さんや市の職員さんまで広がっていく。イベント企画を通じて、出会った街の人々は、損得ではなく、もちまえの能力を生かし、喜んで参加してくれる。その懐の大きさに驚くばかりだった。

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近所にオープンした店の内装がすごかった!とジェスチャーを交えて報告するカマリビの仲間たち。

カマリビ発のイベントの輪はひろがり、上海、インドネシアまでつながっていった。そうやって、どんどん輪が広がっていっても、平田さん自身のイベントに対する想いは変わらない。

遊びの場で、新たな人とのつながりが
生まれるよろこび

平田さんが宇都宮で実現したかったことは、“大人数が一つの場所に集まって、みんなで本気になって遊び、楽しみの時間を共に過ごすフェス”。水面下で考えていた願いは、ある理由から派生して、実現されることに。

この10月、後呂さんが宇都宮を発つことに決まった。

「 宇都宮でたくさんの人が参加できるフェスができたらいいなってずっと思っていたんです。後呂くんの送別会をしようか考えた時、『フェスにしたい!』って思って。お別れではあるけれど、テーマは“前向きな後呂(うしろ)フェス”。私たちの馴染みの場所であるオリオンスクエアで、最後にみんなで集まって後呂くんを驚かせたくて」

平日は東京で働き、千葉へ帰る。そして週末は宇都宮へ。そんな日々の中で、フェスに参加してほしい人にひとりずつ会い、イベントを丁寧に作りあげていった。後呂さんへの感謝の想いをこめ、温かい時間にするために。

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平田さんがずっとやりたかったフェス。それを実現させていく中で、この街には手を差し伸ばせば大らかに応え、協力してくれる人たちが多くいることを改めて実感した。さらにうれしい驚きだったのは、その場に集う人と人が、想像以上の速さでつながっていったことだったと言う。

「私たちがやっている企画に興味をもってくれた人が、いつか自分の街に呼んでくれて、ほかの街とコラボレーションイベントができたらうれしいなと思っています」

この街でつながった“私たち”の中心にいた平田さんは、これから先もたくさんの人の協力のもとに、新たなつながりの場を築こうとしている。一人ひとりがもつ力のすごさを信じているからこそ、平田さんはこれからも人と街、さらに広く、街と街をつなげる存在になっていくのだと思った。

協力:宇都宮市

EVENT
宇都宮を知って、味わって、つながるトーク&ドリンクイベント

「うつのみやらしく」
日程:11月23日(水・祝)
場所:Bird 代官山
時間:14:00-16:30
入場無料
東京から新幹線で50分、日光や那須、益子などにも近い宇都宮市。『雛形』が取材してきた、宇都宮を拠点とし、街と人とをつなぐ活動をしてきた人たちを交えたイベントが来週「Bird 代官山」にて開催されます!当日は栃木の限定クラフトビールやカクテルがふるまわれる中、ゲストのお話を聞きながら「うつのみやらしさ」を味わい知ることができます。また、会場の「Bird」とコラボした宇都宮の旬の食材を使ったサンドウィッチもご用意! 多拠点での暮らし方や、街と人をつなげることに興味がある方、ぜひご参加ください!
https://www.hinagata-mag.com/15113

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新しい縁を深めて生まれる “もうひとつの故郷”
平田唯さん ひらた・ゆい/1982年、東京都生まれ。日本女子大学卒。現在外資企業で東京勤務。千葉市在住。2012年から中心になって料理をふるまう「ひらたばー。」を名古屋、大阪、倉敷、東京、千葉、宇都宮で開催。2016年6月から宇都宮市のシェアハウス「カマガワリビング」に週末のみ居住。宇都宮市で数々のイベントを開催している。
(更新日:2016.11.16)
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都市と地方、二拠点の魅力が交差する栃木県・宇都宮市。ここで新たな“自分の場所”を生み出している人々が語る、“宇都宮らしさ”ってどういうこと? 
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