特集 宇都宮ダブルプレイス案内

都市と地方の魅力が交差する、 この場所でしかつくれない“かっこいい”ものを。

宇都宮市の大谷地区はその名前にふさわしく、岩壁に囲まれた大きな谷にあるようなまちだ。かつて採掘場だったという巨大地下空間が、ここ数年観光名所として注目されている。その大谷に2年前にできたミュージアムショップ「ROCKSIDE MARKET」のプロデュースに携わったのが松本裕功さん。

「ここでならおもしろいことができるかもしれないと思って」という彼の肩書は、商業施設コンサルタント。でもやっている仕事は、その範囲にとどまらない。今年の4月には新たにベーカリー&カフェレストラン「THE STANDARD BAKERS」をオープンさせる。これまでは主にコンサルティング業を行ってきた松本さんが、自らお店を始めようと決心したのはどんな思いからなのだろう。その答えを求めて、大谷に向かった。

写真:志鎌康平 文:甲斐かおり

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この場所でこそ実現できる、
アンテナショップを

宇都宮中心部から北西の大谷地区へと車を走らせる。30分ほどで大谷に入ると、車窓から流れる風景が変わり始めた。道の両脇にそそり立つ岩壁。黄褐色の美しい縞模様が続く。古代の火山噴火による地形で、ここで採れる「大谷石」は昔から外壁や土蔵など高級建築の材料として使用されてきたのだそうだ。大正から昭和60年頃まで大谷には、石の地下採掘場があった。その巨大で神秘的な空間はいま「大谷資料館」として観光名所になっている。

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現在、「大谷資料館」となっている大谷石地下採掘跡地。巨大な地下建造物を思わせる。地下に広がる地底湖では、クルージングを楽しめるツアーも。

現在、「大谷資料館」となっている大谷石地下採掘跡地。巨大な地下建造物を思わせる。地下に広がる地底湖では、クルージングを楽しめるツアーも。

松本さんが、大谷に関わることになったのは、今から3年前のこと。資料館オーナーの息子さんと松本さんの古くからの友人のつながりから、声をかけられたのだ。資料館脇のミュージアムショップをリニューアルしたいという話だった。

「ずっと地元で建築をやってきた仲のいい友人だったので、はじめは仕事として関わるというよりも一緒におもしろいことをやろうって感じでスタートしました。じつは数年前から2人でこういうことできたらいいねって意気投合していた企画があって。それを実現するいい機会になるかもしれないと思ったんです」

それは、栃木のものにこだわった小物やクラフトを置いた店を始めること。「栃木県のかっこいいアンテナショップ」をつくる案だった。

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「仕事がら他の県からセンスのいいクラフトがどんどん出てきているのを見ていて。でも栃木県のアンテナショップには、食品類は充実していても、生活雑貨やクラフト系のいいものが少ないなと感じていました。伝統工芸品の技術を生かして、もっと若い人たちが手に取り入れやすいものをつくるができると思ったし、栃木でしかつくれないかっこいいものをつくりたかったんです。友人が建築と施工を担当して、僕が小売や店舗のノウハウを提供して。オリジナルのプロダクトをつくるために、県内でものづくりしている人たちを300〜400人はまわりました。最終的に形になったのは30〜40くらいかな」

「ROCKSIDE MARKET」がオープンしたのは2016年の春。お店へ入ると、ここでしか買うことのできないオリジナルのクラフトや食品が並ぶ。栃木県南部に伝わる組紐でつくった「間々田紐のあわじ玉ピアス」や、大谷石を土台にしたろうそく、益子の作家による陶器、那須のカフェでつくられた手づくりジャム……など、栃木県で生まれたものばかり。

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大谷石の器にソイワックスを流し込んだキャンドル「takibi」(左奥)や、花や木の実、大谷石の入った「Aroma Wax」(右奥)。「stone colorピアス」(手前)など、大谷石を用いたオリジナルの品が揃う。

大谷石の器にソイワックスを流し込んだキャンドル「takibi」(左奥)や、花や木の実、大谷石の入った「Aroma Wax」(右奥)。「stone colorピアス」(手前)など、大谷石を用いたオリジナルの品が揃う。

「栃木でもこれだけカッコいいものができる」というメッセージは周りにも伝播して、ここ数年大谷は若い人たちがツアーを企画するなど活気を取り戻している。「ROCKSIDE MARKET」はその要になっているといっていい。昨年の資料館の入館者は、2013年の約4倍、40万人を超えた。

未来像の見えるまち。
だから、自ら始める

「それでも、大谷にもっと多くの人に来てもらうためには、足りないものがまだたくさんあると思っていて。駐車場はこれからできます。でも見に行けるスポットも少ないし、人数を収容できる飲食店がないんですよ。そこで、地元の人たちにも観光客にも喜んでもらえるような、ベーカリーショップを兼ねたカフェレストランを始めることにしたんです」

こともなげに言うが、これまで経営者に伴走するコンサルタント業が主な仕事だった松本さんにとって、自らオーナーとしてお店を開くのは初めてのこと。思い切った理由を問うと、「もう半ば、意地です」と笑って言った。

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「この建物の一部だけ使ってシェアオフィスにするような案も出ていたんですが、それを知った時、そうじゃないだろうって思ってしまって。ここをリノベーションするなら全体を変えないと雰囲気が出ないし、せっかくこれだけ観光客が訪れるポテンシャルのある場所でオフィスをやるのは勿体ないと思いました。それですぐに契約して、自分が何とかするからって。そのために、自営業でやってきた事業を会社にして、資金を集めました。『ROCKSIDE MARKET』と今回のベーカリーで大谷の2大スポットを抑えているので、これからもっと大谷はおもしろいことになっていくと思います」

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普段は落ち着いた物腰からクールに見える松本さんだけれど、その奥にある熱いものがちらりと見えるような話ぶりが印象に残った。

「THE STANDARD BAKERS」は、2018年4月に大谷のもう一つの名所、大谷寺の入り口にオープンする。おいしいパンを買うことができて、ゆっくり食事もできる、明るくて開放的なレストラン。話を聞いていると、そこが「ROCKSIDE MARKET」に並ぶスポットとしてたくさんの人で賑わう様子が目に浮かぶ。

「THE STANDARD BAKERS」は2018年2月末には完成予定。パンのほかにパスタやグリル料理も提供する。まちの周囲も含めて、松本さんにはこの場所の未来像が見えているかのよう。

「THE STANDARD BAKERS」は2018年2月末には完成予定。パンのほかにパスタやグリル料理も提供する。まちの周囲も含めて、松本さんにはこの場所の未来像が見えているかのよう。

大谷との関わりから知り合いも増え、県内のほかのエリアでの仕事にもつながり始めている。そんな松本さんは、一つの地域を、もうひとまわり広い視野で見ることの大切さを話す。

「大谷の中だけを見ていると、訪れた人たちにこの中でどう動いてもらうかってことばかり考えてしまいがちですが、もう少し広く、北関東くらいの範囲で見ると、大谷って都市部からとてもいい距離感にあるんですよね。日光や益子に向かう途中に立ち寄ることもできるし、日帰りで遊べるスポットとしてもちょうどいい。そんな視点をもって、僕らがもっと周りの地域とつないでいけるといいのかなと思っています」

宇都宮の暮らしやすさと、
都心のスピード感

9年前、会社員だった頃から、栃木に暮らしながら東京へ通う生活を続けてきた。奥さんの職場が宇都宮にあったことが一番の理由だけれど、松本さんはこのライフスタイルを気に入っている。

「いまも週3〜5日は宇都宮から東京へ通っていますが、新幹線で1時間ほどなので通勤もそれほど大変じゃないんです。暮らすことを考えると宇都宮の方が環境はいいと思うので。小さな子どもがいると、電車でなく車社会なので移動が楽ですよね。祖父母も近くにいるので、共働きでも何かの時にはすぐに手を借りられます。駅のすぐそばで、保育園も近くて便利ですし」

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6年前に独立した際も「住むのは宇都宮、仕事は東京で」と決めてやってきた。それがここ最近、大谷のプロジェクトに携わったことで地元でのネットワークが広がり、少しずつ県内の仕事も増え始めている。今後は東京の仕事を減らしてできるだけ栃木にシフトしていくのだろうか。

「いえ、やっぱり東京の仕事はやっていてすごく楽しいし、周りの人たちのクオリティも高いので今のペースで続けていきたい。何よりスピード感と情報感度が全く違います。それを栃木に持って帰って周りに伝えられたらいいなと。東京でちゃんと稼いで、栃木では面白くてやりたいことに絞って関われたらいいなと思っています」

今あるものを、
もっとかっこよく

都心の最前線での仕事と、地元の気のおけない仲間と家族。そのバランスが今はちょうどいい。どんどん望む方へ進んでいるように見える松本さんだが、その道はどこへ向かっているのだろう。

「じつは将来やってみたいことがあって、今の仕事は全部そのための準備かもしれないとも思っているんです。それは、地元の道の駅や廃校で新しい事業をやること。今ある道の駅も楽しい場所ではあるけど、もっと機能的で、気持よく過ごせる場所になるといいなと思っていて。例えば、機能面でいうと、今は売れなかった野菜を生産者が持って帰らないとならないしくみですが、残った食材を加工して販売できるといいし、飲食店も重要なファクターになります。空間づくりにしても、今回の『THE STANDARD BAKERS』では、スタッフの制服、BGMから庭のディレクションまで、これはぜひこの人に、と思うアーティストや専門家に依頼して一緒につくっています。そうした商業施設の手法を応用して、道の駅ももっと魅力的な場所にできるかもしれない。廃校も同じで、シェアオフィスにするような方法だけでは雇用を生むのはなかなか難しいんじゃないかなと思っていて。ちゃんと収益を上げながら、かっこいいことができたらいいなと思いますね」

やはりモチベーションの発端は「今あるものを、もっとかっこよく」なんだなと思った。こうすればよりよくなるし、できると知っているから、自分で形にして見せたいと思う。

「まぁでもやっぱりまちのためというよりも、自分があったらいいなと思えるものを仲間と一緒につくっていて。それを来てくれたお客さんに喜んでもらえたら、それだけですごく嬉しいです」

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編集協力:宇都宮ブランド推進協議会

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「うつのみやらしく、」vol.02

日程:2月24日(土)
場所:Bird 代官山(東京都渋谷区代官山町9-10 SodaCCo 2F)
東急東横線代官山駅徒歩7分 JR山手線渋谷駅徒歩12分
時間:14:00(13:30開場)~16:30
ゲスト:
①掛川真史さん(WEBディレクター)×平田唯さん(食楽コーディネーター)
クロストーク「街を知るとは、人を知るとは
②井上広法さん(光琳寺・副住職)
ワークショップ 「宇都宮の魅力に気づく頭と心のレッスン」
ビール:中尾真仁さん(醸造家/「BLUE MAGIC」店長)
オリジナルクラフトビール 2種
・「とちおとめエール」栃木のとちおとめを贅沢に使用したいちご香るスッキリな飲み口のフルーツエール。
・「Citrillo(シトリロ)」ホップをふんだんに使用したシトラスな華やかな香りに、シャープな飲み口が癖になるアメリカンペールエール。
フード&ドリンク:Birdオリジナルうつのみやサンドウィッチ 2種+オリジナルドリンク
・宇都宮の「松井のコロッケ」&「Bird謹製タルタル」のサンドイッチ
・「とちおとめ」と自家製マーマレードのフルーツサンド
・いちごのチャイ
参加費:無料
申込方法:イベント申込専用アドレス(hinagata_event@prk.co.jp)宛に、お名前(フリガナ)、携帯番号、メールアドレス、人数をご明記の上、メールを送信してください。
主催:宇都宮ブランド推進協議会(宇都宮市 広報広聴課内)
運営:雛形編集部

宇都宮ブランド推進協議会では、「宇都宮プライド」「ダブルプレイス」「宇のコト」などのウェブサイトを通して、宇都宮の暮らしや魅力についての愉快な情報を集めて発信しています。

※複数名で参加申込みされる場合は、ご同伴者さまのお名前もご記入ください。
※本イベントは、「雛形」が取材しレポート記事として掲載される場合があります。あらかじめご了承ください。
※会場受付にて、返信メールもしくは、プリントアウトしたものをご提示いただきます。
※受付が完了後、順次ご返信させていただきますが、17時以降に申込みいただいた場合は、場合は翌日以降の返信になる場合がございます。
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※申込受付は、ピーアールコンビナート株式会社に委託しています。

 

都市と地方の魅力が交差する、 この場所でしかつくれない“かっこいい”ものを。
松本裕功さん まつもと・ひろのり/1979年、栃木県生まれ。大学卒業後、百貨店に入社、販売から仕入れ、販促・イベントの企画管理まで小売をゼロから学ぶ。JR東日本グループのエキナカ及び駅ビルなど商業施設開発・運営企業に転職。その後、地元栃木に戻り、独立。2016年には大谷資料館脇のショップ「Rockside Market」にディレクターとして携わり、2017年には株式会社カルチャーバンクスタジオを設立。2018年4月に「THE STANDARD BAKERS」をオープン予定。
(更新日:2018.02.21)
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都市と地方、二拠点の魅力が交差する栃木県・宇都宮市。ここで新たな“自分の場所”を生み出している人々が語る、“宇都宮らしさ”ってどういうこと? 
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