ある視点

立ち上がる、歩く、電車に乗る、
買い物する、引っ越しする、季節が変わる、
生活の中には、いろいろなサイズの「移動」がある。

 
もしかしたらほんのわずかな目の動きだって、
季節が変わるくらいの「移動」なのかもしれない。

 
風景と文章を追う“目の移動”が
オーバーラップすることばの世界へ。

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ふみちゃんは駅前のロータリーに出たとこにサーティーワンアイスクリームがある、あったのが、看板が、無くなっているからいつもよりそのあたりが白っぽくて何、二階建ての白い建物でなにかのお店だったか、看板の取り外しの工事をしている最中、と分かるよりも前には、赤いカラーコーンが店の入口前に配置されていて、その周辺に数名のグレーの作業服を来た男たちが集まっている、集まった男たちのうち二名が脚立に登っていて何だ、脚立の下にいる二名の作業員が手を広げて受け取る、それは看板のようで、それはサーティーワンアイスクリームの看板で、そうそうここはサーティーワンアイスクリームがあったよね。」と話すことになるこれからが始まった。

 

だってふみちゃんはサーティーワンアイスクリームでアイスクリーム買って食べたことある。でもずっと昔で、たしか横浜に行った時なのでここの店舗ではないのだけど覚えていて、その時はふみだけじゃなくて朝比奈さんもいて、わたしもいて、三人ともダブルで注文することだけは決めて、レジから伸びている列の最後尾に並んでアイスクリームが入っている横に長いガラスケースを覗き込もうとしたけど前の人がつっかえていてまだ端っこにある数種類のアイスしか見えないから「えー何にしよって思ってたら「わたしね、一個はストロベリーチーズケーキ」と宣言した先頭を進むふみにもまだストロベリーチーズケーキは見えてない。「ふみちゃん決めるの早いねえ」と朝比奈さんは驚いて、でも小さな声だったのでふみには聞こえてなくて「ふみ、決めるの早いね」とわたしが朝比奈さんの背中越しにふみに向かって繰り返したら「ダブルだったら一個はストロベリー系は絶対っしょ」と目をガラスケースから離さずに答えた、ふみが、一歩前に進んだから朝比奈さんが一歩前に進んだから、ガラスケースの中に並んだカラフルなアイスの種類を半分くらいまでは見渡すことができるようになって、真ん中より少し手前にようやくストロベリーチーズケーキが見えた。その一つ隣にバナナアンドストロベリーが見えたのを見たのだろう朝比奈さんが「バナナアンドストロベリー」と小さく声に出した。それをわたしもふみも聞いた。ふみは「ぎゃは」と笑って一歩進んだ。その後に続いて朝比奈さんがなかなか一歩前に進まないので、わたしは振り返って表情を確かめたい気持ちになっても、振り返ったら朝比奈さんの顔を見ることができるのは前を進んでいるふみなのだけど、ふみは振り返らなかったし、わたしから見える朝比奈さんの後ろ姿は肩が笑うように細かく揺れてたので、ふみは振り返らなくても大丈夫だった。もしも振り返っていたら、わたしたち三人の後ろにも何組かの人が列になっているのが見えて、その人たちが少し前のわたしたちと同じようにガラスケースの端っこからアイスを覗き込んでいる。彼らを背にしてこちらを向いている朝比奈さんと目が合って「ふみちゃん、もう一個も決めたの」と訊かれたとしたら、わたしがふみなので「決めたバナナアンドストロベリー」と答えてからすぐに、ぎゃは、と笑ってみせる、ふみだったらきっとそうした。すると朝比奈さんは今度はもっと大きく肩を揺らした、笑っている、そうなることもふみは心得ていた。「結局ふたつともストロベリー系じゃん」って誰も言わなかったけど、言うとしたらわたしだ。
「ていうかまだ決まんないのぉ」これはふみだ。

「えっと、ちょっと待ってね」朝比奈さんだ。

「迷うね」わたしだ。

「もう決めたの」こちらを振り返った朝比奈さんだ。

「迷うよねぇ」わたしだ。

「ねえ、まだぁ」ふみだ。

「ふふふ」ここでふふふって笑えるのが朝比奈さんだ。

 

駅前のロータリーにあるサーティーワンだった今は松屋が、駅前を行き交う人々に通り過ぎられる時に、わたしは元々サーティーワンだったんですよ、と話しかけたりしないし、どちらかと言うと、わたしは松屋ですよ、と話しかけている感じなので、松屋がある駅前になってる。その前を通りかかるのがふみだったら「ここはサーティワンアイスクリームがあったよね」と思うと思う。

早朝に歩く、とても明るい駅前は、松屋はまだ閉まってる、ガードレール沿いにゴミ袋が並んでいる、信号機が青になった、カラスが飛んでる。
ふみは「カラス飛んでる」と思うと思う。

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目の泳ぎ
関川航平

1990年、宮城県生まれ。美術作家。パフォーマンスやインスタレーション、イラストレーションなどさまざまな手法で作品における意味の伝達について考察する。近年の主な個展に2017年「figure/out」(ガーディアンガーデン、東京)など。グループ展に2018年「トラベラー:まだ見ぬ地を踏むために」(国立国際美術館、大阪)「漂白する私性 漂泊する詩性」(横浜市民ギャラリー、神奈川)ほか。
http://ksekigawa0528.wixsite.com/sekigawa-works

(更新日:2019.11.07)

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