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「目の泳ぎ」関川航平(美術作家) 「目の泳ぎ」関川航平(美術作家)

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ここは天井の高い、スーパーマーケットのレジ横を通り抜けて奥に進むと、トイレと喫煙所の手前にイートインコーナーが設けられている、薬局と併設しているので連絡通路でもあって、スーパーから薬局に通り抜けようとするときの右側はガラス窓になっていて駐車場が見える。ガラス窓沿いには一人掛け用のカウンターがあり、反対側には二人掛け用のテーブルが並べて置いてある。その時の今、向かい合って座っている小さな姉弟は、ここでしばらく待っているように言われたのか二人の目の前のテーブルの上には何も乗っていない。弟の方は、片手をパーにしてテーブルの上に置いて、その手をもう片方の手で触っている。ここは、ここで買ったものを食べれる、食べている人がいる。入り口近くには自由に使ってもいい電子レンジがあって、今、あたためが終わった音を出したが、これは姉弟には無関係だったようだ。違う男がレンジの音が聞こえたら立ち上がった。電子レンジの他にも、電気ポットや紙ナプキン、スプレータイプのアルコール消毒液などがある。他にも、お茶を注いだ紙コップを二つ持って慎重にあるく老人は、ドリンクサーバーの玄米茶ボタンの反応が悪いことに腹を立てて舌打ちをしていた、ドリンクサーバーはイートインコーナーに入ろうとする時の左側にあり、実際に入ったときには老人がボタンを操作していてその指先は玄米茶のボタンに触れていたので紙コップの中身は玄米茶で、その後ろに並ぼうと思ったが、確かにボタンの反応が悪くてなかなか思ったようにお茶が出ない、コップ一杯分を満たすだけでも時間がかかっていたし、老人のボタンを押すのと反対側の手には、まだ空の紙コップも握られていて、喉が渇いていたけれどまずは座れる席を探した、その後、老人は無事にコップ二杯とも玄米茶を入れる事ができたようで、それでもやはりだいぶ時間がかかったのが分かるのは、今ごろになってようやく座席に向かってそろそろと歩いている姿がそうだ。店内のBGMは何だったか。壁には緑色を基調として描かれた動物のイラストが掛けられていて、観葉植物と一緒くたになってレイアウトされている。買い物を終えてビニール袋を四つ持った夫婦は、二つずつに袋を分けて持ち運んで、無造作に机の上に置かれた袋は持ち手がだらしなく開いた、音は聞こえないくらいの距離だったし、店内にはもう覚えてはいないBGMが鳴っていたので、今見えていた、ビニール袋が開くガサッとした音は、それより前に別のどこかで聞いたビニールの音を覚えていて、その光景にあてはめたので聞こえた。本当に聞いたのは、姉弟の弟のほうの椅子の音だ。見れば、椅子は、背もたれ付きの椅子で、寄りかかっていたから四本足の前二本が浮いていたのか、見た時には、もう四本とも床に着いていて、まだ目を向け続けていると、弟は(また)背もたれに体重をあずけて、椅子の前足が浮いた。姉は顔をだいたい弟のほうに向けてはいたが、椅子の音を聞いていたのか、思い出すことはあるだろうか。思い出す。成人式の日、会場に向かう前に同級生と待ち合わせをしたフードコートで思い出す。振袖を着た友人が、背もたれ付きの椅子に座りながら反り返って、振袖を着ているからぎこちなくなった動きで、後ろにぐぅーっと伸びをした時に、弟は、その時は十七歳で休日なので家にいる。この時間帯に家で一人なのは久しぶりだ、台所の窓の外は真昼の明るさなのに、部屋の中は薄暗くて涼しい。お腹もすいていたような、朝から食べてないけど何か甘い飲み物で良い、それか炭酸の入ったジュースで良い。部屋の天井には、外を通り過ぎる車のフロントガラスなのか、反射して、あいまいな長方形の光が、車みたいなスピードで、時々通り過ぎてゆく。ブラインドを下げていれば、その反射光はブラインドに裂かれて縞模様になったのだろうか。今、考えている光は、外は、夏みたいだけど、姉は、今日が成人式で友達三人と約束していて、駅ビル前で集まって式のはじまる一時間前、なのは、冬で、部屋の中の弟も長袖長ズボンだった。ダイニングテーブルの上に用意された、これがその日の昼食だったか、ラップをかけた焼うどんを見下ろして、椅子を持ってくれば座るだろうけど、そこに立ったまま口呼吸をしている。ラップの内側は細かな水滴で覆われていて、時間が経てば隣同士の水滴とくっついてひとつひとつの粒が大きくなり、やがてラップの表面にくっついていられない大きさになり焼うどんに落ちたが、落ちる瞬間は見ていない。水滴が落ちる前に食べた。電子レンジで温めた後に、はがしたラップを両手でまるめて握った時、少しだけ手が濡れた。弟は自分の手を見る、少し目線を上げると、待ちくたびれたような姉の顔が、イートインコーナーの角に置かれたテレビが流していたニュース番組を見ている、というかただぼんやりと顔を向けている、その目線の先を追って振り返れば、イートインコーナーの角に置かれたテレビがニュース番組を流しているのを見た、さっきから流れているBGMはテレビの音だ。姉の方は、顔はテレビに向けていて、耳は弟が椅子の前足で立てるガタッガタッという音を覚えていて、肩には小さい花柄のワンピースが引っ掛かって布は膝頭まで続いていて、もっと小さい頃には髪が短かくて、父親の友人たちによく弟と間違えられていたこと、それを大人の人を上手く騙せているような気持ちで少しくすぐったいような嬉しさがあり、だからといって特別弟っぽく振る舞ったことはなかったが、新しく出会った大人の人たちが誰も弟と間違わなくなった頃から、少し遅れて弟に間違われようと努めている顔のわずかなこわばりに気がついたことがあった。その頃にはもう、母親が姉に買い与える服が花柄のワンピースみたいなものが多くなっていた。弟は、姉が、父の友人たちに、いつものように〝自分だと間違えられている〟シーンに立ち会った時、一度はっきりと母の表情を見たことがあった。表情という言葉を知らなかったので、母の立ち姿全体を見ていた。姉と弟に、「父の友人たち」として覚えられている男は三人いて、共通点はないし、区別がない。

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目の泳ぎ
関川航平

1990年宮城県生まれ。美術作家。パフォーマンスやインスタレーション、イラストレーションなどさまざまな手法で作品における意味の伝達について考察する。近年の主な個展に2017年「figure/out」(ガーディアンガーデン、東京)など。グループ展に2018年「トラベラー:まだ見ぬ地を踏むために」(国立国際美術館、大阪)「漂白する私性 漂泊する詩性」(横浜市民ギャラリー、神奈川)ほか。
http://ksekigawa0528.wixsite.com/sekigawa-works

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