ある視点

軽やかに生きていくために。

すべすべ、ざらざら、ふさふさ。

普段はあまり文章を書くことがない
本屋さんが紡ぐ、まっしろで、
肌触りのある言葉たち。

小さなまちの本屋さんが選ぶ、
手触りのある3冊。

vol.8 軽やかに生きていくために。

石井真秀子さん(「HOOKBOOKS」店主/栃木県)

栃木県那須塩原市の古本屋でした。過去形なのは、6月に実店舗を閉めたからです。小さな町ですが、全国的に有名なカフェのあるエリアに店を構えていたので、たくさんの一期一会があるお店でした。そして、今新しく、HOOKBOOKSはオンラインでの営業が始まったところです。

 

これから本格的に始まるオンラインでの営業は、何処にいても、好きな時に好きなだけ、誰にも気兼ねせずにゆっくり心ゆくまで本を見てもらえるという、実店舗では出来なかったことを実現しています。直接手に取ることは出来ませんが、お店でお客さまに直接勧めるのと同じように本を紹介しています。そして、これからオンライン上で面白いことをやりたいなと思っています。

 

さて、新型コロナウイルスが世界を覆っている現在、テーマである「手触りのあるもの」を感じることはなかなか難しいかもしれません。触るということがとても危険で注意深い行為になってしまいました。でも、私たちは想像力という素晴らしいものを持っています。忘れてしまっている人も、ちょっと鈍っている人も、本の力を借りて想像力を大いに利用してみてはいかがでしょうか。

 

今回紹介する3冊は、これからの激動の時代を、「軽やかに生きていくための気づきとなる本」という裏テーマを持って選ばせてもらいました。普通に生活をしているだけで、たくさんの情報が私たちの頭も心もいっぱいにします。少しだけ、テレビもSNSも見ずに、本のページをめくってください。そして、自分の心の中へ戻ってみてください。そこで、あなたは何を感じ、何を思うでしょうか。自分の心を触ってみるということも出来るかもしれません。今、あなたの心はどんな手触りがするでしょうか。きっと、心に触れることが出来る本たちだと思います。

 

全てはイリュージョンだと信じて世界を見てみる

イリュージョンリチャード・バック(著)・佐宗 鈴夫(訳)
集英社文庫)552円(税別)

カモメのジョナサン』で有名なリチャード・バックが綴る、あるパイロットの物語です。
風来坊のようにアメリカ中を飛行機で飛び回り、遊覧飛行でその日暮らしをしている主人公のリチャードが、ある日救世主をやめたというドンと出会うところから物語が始まります。そして、最後には自分も救世主になるという、何とも不思議な話です。ドンと一緒に過ごす中で、また物語の中に出てくる「救世主ハンドブック」をめくるうちに、様々な常識が覆されていきます。

 

この世界はイリュージョンである。自分は何を選択しているのか。今、目の前で起こっていることは、誰が選んだことなのか。自由とは何か、奇跡とは何か、生きるとは何なのか。私たちも一度、全てはイリュージョンだと信じて世界を見ると面白いことが起こるかもしれません。

 

自分だけの作品を完成させる本

どんぐり』オノ・ヨーコ(著)・越膳こずえ(訳)
河出書房新社)1,600円(税別)

1964年に出版された『グレープフルーツ』の現代版にあたります。コンセプチュアルインストラクション本と定義されているこの本。直訳すると「概念を指示する本」です。

 

〈空の作品〉〈浄めの作品〉〈見る作品〉などのタイトルがあり、そこには様々な指示が書かれています。例えば、「港に座る。カモメが踊るのを見る。心の中で一緒に踊る。踊り続ける、カモメの鼓動が聞こえるまで」「落ち着く場所を探す。その場所をきれいにする。離れている時その場所のことを考える」など、もう少し長いものもあります。それを指示通りに考え、想像し、または実際に行い、自分でその作品を完成させます。とても簡単なものから、集中力が必要な難しいものまで。スケールの大きさも様々で、突拍子がないものも多いです。その分、普段の生活で染み付いている固定観念を大きく壊すことが出来ます。

 

1つでよいので、真剣にこの指示にそって作品を完成させてみてください。そして、終わった後、自分の心の変化を見てみてください。

 

ただ愛に生きるということに本気で挑戦したくなる

プリミ恥部 あいのことば』白井剛史
mm books)1,753円(税別)

持っているだけで「ラブ」になれる本です。著者の白井剛史さんは、「プリミ恥部」という名前で、宇宙マッサージをしたり、歌を歌ったり、映画を撮ったり、文章を書いたりと、多方面でラブを発信しています。そんなプリミ恥部さんが愛について語った言葉を集めた一冊です。

 

とてもシンプルな言葉で書かれていますが、頭を殴られたような衝撃があります。その言葉通り実践してみようかと思うと勇気がいるようなことばかりです。例えば、「気をつかうと即死」。気をつかうことが良いとされる今の世の中で、つかったら即死と書ききる。一見愛とは関係なさそうなこの言葉ですが、自分の中にある隠れた甘えに気付かされ、そして、本当の愛の状態ってどんなものだろうかと想像をめぐらせずにはいられません。

 

心の奥底に響く言葉たちを前に、一瞬一瞬がとても大切なものに思えます。そして、ただ「愛に生きる」ということに本気で向き合い、挑戦してみたくなります。

石井真秀子さん
2016年に古本屋「HOOKBOOKS」をオープン。小さな店舗ながら展示やイベントを行う。また韓国のデザイン事務所the objectと共同でJun Yabuki『NOTHING』を出版する。文筆活動も行っており、フリーペーパーやカタログへの寄稿、tenten名義でイラストレーターのTomomi Takashioと作品制作もしている。2020年3月、実店舗を休業し、そのままオンラインのみの営業へ移行する。「まほろば」というHP上で本の販売のみならず面白いことをやっていく予定。

HOOKBOOKS
hookbooks.isii@gmail.com
https://mahoroba.one
(更新日:2020.06.19)

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