ある視点
すべすべ、ざらざら、ふさふさ。
普段はあまり文章を書くことがない
本屋さんが紡ぐ、まっしろで、
肌触りのある言葉たち。
小さなまちの本屋さんが選ぶ、
手触りのある3冊。
vol.20 世界を色鮮やかにしてくれる本
組織で働くことに疲れてしまい、自営業になろうと決めた時に頭に浮かんだのが「古本屋」でした。学生時代に学校一番の“本の虫”だった訳でもなく、社会人になってからは本を読まない時期もあった普通の本好きくらいの僕が、なぜ古本屋をやろうと考えたのかはよく分かりません。自分で思っていたより本は大きな存在だったようです。古本屋が無い町に古本屋をつくりたいということも動機の一つではありましたが、何より自分が気持ちよく働ける場所をつくりたいということの方が大きかったような気もします。
「コトウ」は、どんな方が来ても何か1冊買っていけるような町の本屋でありたいと思っています。お客さんにとって日常の時間から少し離れた孤島になれれば嬉しいです。
コロナウィルスの状況によって、まさか店にお客さんを招けない状況が来るとは想像もしていませんでした。世の中、思いもよらないことが起こるものですね。実店舗を続けていくことは更に厳しくなっていくかもしれませんが、実店舗の価値を信じて、より大切に磨いていきたいと思っています(だからと言って、実店舗を持たない書店をどうこう思っていません。それぞれの考えとやり方があって良いと思っています)。
僕が今、触れたいものは、優しさや希望を感じられ、この世界も捨てたもんじゃないと思わせてくれる言葉です。上っ面の言葉ではなく、その人そのものを感じられる言葉、その人だからこそ出てきた言葉に惹かれます。励ますでもなく、押し付けるでもなく、奇をてらわず、飾らない自然な言葉が好きです。絶望を知っているからこその希望、辛さがあるからこその優しさ、人はみな何かを抱えながら生きていると思います。多くの問題が山積みの社会、生きにくさを感じている人も沢山いるでしょう。それでも、この世界には優しさや希望や光があり、本当は素晴らしいんじゃないのかと思わせてくれる本を僕なりに3冊選びました。
100年を生きた詩人の言葉が、一筋の光になる
『百歳日記』まど みちお
(日本放送出版協会)/740円(税別)
昔から生と死について、時にはぼんやり、時にはグッと、考え続けていました(中2の時は自分がなぜ生きているのか、生きているこの世界は何なのか、考え過ぎて何も手につかなくなり、5段階評価の通知表で、体育を除きオール2を取りました。ちなみに美術は先生に呼び出され、「1にしようと思うけど来学期頑張るなら2にする」と言われ、その場しのぎの「頑張ります」の声を出し2にしてもらいました)。生きている限り死に近づいていく。長い時間を生き、より死が身近になっている年長者の考えや言葉に興味があります。
詩人まど・みちおさん100歳の言葉。思考。生きるとは、死ぬとは、幸せとは何なのか。『百歳日記』は、言葉や詩やイラストを通じて、まどさんが見ている世界を一緒に覗かせてくれる一冊です。辛いことや悲しいことをグッと飲み込み、飛び越えていった先にある、この世界への暖かいまなざしや希望の光を感じることができます。気を抜くと閉塞感や不安に押しつぶされてしまいそうな今の時代にこそ、詩人の言葉が一筋の光になり得ると思います。
100歳まで生きるってどんなでしょうね。まどさんが100年練り上げたものを、そっと置いていってくれたギフトのような本です。 まどさん、ハロー!サンキュー!バイバーイ!
もう、そこに「あるんだから」
音楽家・高木正勝さんの、里山での暮らしのことや、音楽制作のことなどが綴られているエッセイ。高木さんの自由で優しくて温かくて真っすぐな文章が大好きです。自然や日常生活のなかの普段は気にもかけないようなところや、ほんの身近なところにも美しさや気づきがあることを教えてくれます。感じ方は自由、表現の仕方も自由、自分自身も自由、この世界はもっと自由に感じるままに生きていくことができるのかもしれません。
『こといづ』を読んでいると、「あー、自分が勝手に作った枠やゴチャゴチャした邪魔なものを振り払ってしまいたい!自分の周りにあるものを大事に、おおらかに、真摯に生きていこう!」って思えるんです。パーッと目の前が明るく軽やかに開かれるような感覚になります。
人や自然が持つ温もりや熱、あちこちに溢れる色や音や匂い。五感を研ぎ澄ませば、この世界は僕らが思うよりずっと鮮やかな姿を見せてくれそうです。 「あるんだから」。高木さんが住む村のおばあちゃん「ハマちゃん」の口ぐせ「あるんだから」。大事なものや必要なものは、自分の中や身の周りにきっとある。深呼吸するように繰り返し読みたくなる、必要とする人のそばでずっと寄り添ってくれる1冊になるはずです。たかぎみかをさんの挿絵も、『こといづ』に彩を添えています。
この本を初めて全て読み終わった後、買い物に行った帰り道に、少しスキップをしました。
自分の真ん中に向き合う質問
『最初の質問』長田弘、いせひでこ
(講談社)/1,500円(税別)
詩人・長田弘さんの「質問が続く詩」に、絵本作家・いせひでこさんの絵が添えられた絵本です。 長田さんからの質問を一部紹介します、皆さんならどんな風に答えますか?
「あなたにとって、いい一日とはどんな一日ですか」
「“うつくしい”と、あなたがためらわず言えるものは何ですか」
「あなたにとって、“わたしたち”というのは、誰ですか」
「問いと答えと、いまあなたにとって必要なのはどっちですか」
「あなたにとって、あるいはあなたの知らない人びと、あなたを知らない人びとにとって、幸福って何だと思いますか」
自分の中の真ん中にあるものと向き合える質問に、ゆっくり答えを探すのは心地よい時間になると思います。ここからは、僕から皆さんへ質問をしてもよいでしょうか。気が向いたら是非、お手紙ください。
好きな本はありますか?
好きな場所はありますか?
自分の住む町は好きですか?
どこか行ってみたい場所はありますか?
一番昔の記憶はどんな記憶ですか?
大切なものは何ですか?
豊かさってどんなことですか?
夢はありますか?
次の世代にどんな世界を残したいですか?
自分は今、何をすべきだと思いますか?
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小島雄次さん生まれも育ちも福島県。公務員を13年、住所不定無職を2年、その後2017年に古本と喫茶の店コトウをオープン。本屋、喫茶店での勤務経験はなく、思いついたままに店を形にしました。毎日毎日、迷い、悩み、楽しみながら店を開けています。僕にとって店は、遊びであり仕事であり生きがいで、自分の時間と店の時間の境目も無い、そんな暮らしが心地よい、今日この頃です。
Books&Cafe コトウ
福島県福島市宮下町18-30
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https://www.instagram.com/kotou.books.cafe/
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