COLUMN
かみやまの娘たち

ここ徳島県・神山町は、多様な人が
すまい・訪ねる、山あいの美しいまち。

 

この町に移り住んできた、還ってきた女性たちの目に、
日々の仕事や暮らしを通じて映っているものは?

 

あるいは、地方創生という国の大きな流れは
一人ひとりの人生の細部にどんな影響を及ぼしている?

 

彼女たちが出会う人・景色・言葉を辿りながら、
めいめいの変化と、神山町で起きていることを追いかけていきます。

 

冒険と日常のはじまりを、かみやまの娘たちと一緒に。

 

 

写真・生津勝隆 文・杉本恭子 イラスト・山口洋佑

vol.04 “働き方を実験する”宿「WEEK神山」。オープンから1年後の話。

INTERVIEW 「WEEK神山」女将・樋泉聡子さん

 

2015年7月1日にオープンした「WEEK神山(以下、WEEK)」は、“働き方の実験の場”というコンセプトを持つ新しい宿泊施設です。

 

樋泉聡子さんは、WEEKを運営する「株式会社神山神領」に立ち上げから参加。オープン後は、“女将”として宿を守ってきました。この1年間、WEEKでさまざまな宿泊者を迎え入れながら、樋泉さんはどんなふうに過ごしていたのでしょう。また、WEEKという宿は、神山のなかでどんな存在になりつつあるのでしょうか。

 

前回のインタビュー(※)から約1年後の「今」をお話いただきました。
※「雛形」に樋泉さんが登場するのは2回目。前回はオープン直前のお話しです。

 

神山塾からグリーンバレー、そしてWEEK神山へ

川岸に建てられた宿泊棟。全客室とバスルームに大きな窓があり、この景色を望めます。

川岸に建てられた宿泊棟。全客室とバスルームに大きな窓があり、この景色を望めます。

 

樋泉さんが神山に来たのは2011年のこと。「これからどう暮らしていきたいか?」と考え、「神山塾」の2期生として来町しました。当時の樋泉さんの様子を、前回のインタビューの言葉で振り返ってみましょう。

 

「もともと旅が好きで、知らない場所に行くと『ここで暮らしたらどうかな?』って想像することが楽しくて。でも、“暮らす”という体験にまで踏み込むことはなかった。働く場所が自由だと思えた時、地方でも海外でも、自分が思い描く方向に行きたい!と思いました」

 

「神山塾」の後は、「NPO法人グリーンバレー」に就職し、サテライトオフィス開設を検討するため、全国から視察に来る企業の人たちの案内役もつとめたそう。案内を通してまちを深く知ると同時に、樋泉さんは「自分の親しい人にとっての旅の拠点」をつくりたいと思うようになりました。

 

そこに舞い込んだのが、「神山に宿をつくる」という話。それは、樋泉さんが想像していた以上に「大きなつながりのある宿」、WEEKをつくるプロジェクトでした。樋泉さんは、WEEKの運営会社となる「神山神領」の立ち上げから参加し、オープン後は宿の責任者として現場を守ることに。

 

樋泉さんが思い描いていた「旅の拠点」のモデルは、神山塾時代の下宿先だった、グリーンバレー理事・岩丸潔さんの家です。塾生たちは、岩丸さんを「お父さん」と呼び、毎晩一緒に食卓を囲んで、仕事のことも、恋愛のことも相談しているそう。WEEK名物となった「みんなでごはん」のルーツも、実はここにあります。

 

「岩丸家は『はじめまして』の人も集えるターミナルのようなお家。“岩丸家のWEEK版”みたいになれたら。田舎の実家みたいに、『故郷に帰って来たー』みたいな感じで、旅先で一息ついてみんなで食卓を囲んでワイワイしてもらえたらいいなと思っています」

 

実際に、WEEKの食堂棟で過ごしてみると、「田舎の実家」というイメージが不思議と重なり合うのを感じました。良い加減に「かまって」もらえて、「ほうっておいて」もらえる、スタッフの関わりかた。もしかすると、樋泉さんやスタッフが神山に迎えられたときの体験が、WEEKにあるアットホームな雰囲気に反映されているのかもしれません。

 

「WEEK神山」はどんな宿?

WEEKの大家さん、南さん宅の古写真。この写真にある古民家がWEEK食堂棟に改修されています。

WEEKの大家さん、南さん宅の古写真。この写真にある古民家がWEEK食堂棟に改修されています。

WEEKのキャッチコピーは「いつもの仕事を、ちがう場所で」。2階建て全8室(24名収容)の宿泊棟と、築70年の古民家を再生した食堂棟(地野の食堂)は、両棟ともに鮎喰川に面して見晴らしがよく、川から聴こえる水の音に包まれています。

 

インタビューのはじめに、「1年間過ごしてみて、WEEKのどういうところが気に入っていますか?」と質問すると、樋泉さんは「お天気がわかる景色」と教えてくれました。

 

私たちが到着したとき、窓のむこうは雨。川が流れる音と屋根を打つ雨の音も重なりあって響いていました。雨がやむと、川の向こう側にある山に白い霧が立つのが見えます。晴れると、まるで泣いていた子が笑ったときみたいに、景色の表情もぱあっと明るくなります。

 

食堂棟の大きな窓、樋泉さんが毎日見ている景色です。

食堂棟の大きな窓、樋泉さんが毎日見ている景色です。

 

道を隔ててすぐ向こうには、NPO法人グリーンバレーが運営するコワーキングスペース「神山バレ―・サテライトオフィス・コンプレックス(以下、コンプレックス)」があり、こちらも宿泊者は自由に利用可能。いわば「庭(鮎喰川)付き3戸建て」の宿、という感じで、仕事を携えて旅してくる人たちが、滞在しやすい環境も整えられています。

 

左側の白い建物がコンプレックス。閉鎖された元縫製工場を改修したコワーキングスペースです。右側に見えているのがWEEKの食堂棟。

左側の白い建物がコンプレックス。閉鎖された元縫製工場を改修したコワーキングスペースです。右側に見えているのがWEEKの食堂棟。

 

左側の白い建物がコンプレックス。閉鎖された元縫製工場を改修したコワーキングスペースです。右側に見えているのがWEEKの食堂棟。

WEEKを利用するのは、神山町に興味がある人、視察のために訪れる人、あるいは短期間のサテライト・オフィス実験をする企業や行政の人たちなど。最近では、「子どもにいなか暮らしを体験させたい」というファミリーの宿泊もあるそうです。

 

「2016年7月、徳島県が消費者庁のお試し移転先に選ばれたときには、職員の方たちがWEEKに宿泊し、“コンプレックス”で仕事されました。『働き方の実験の場として使ってほしい』という意味では、すごくいい使い方をしていただいたと思います。でも、まさか消費者庁が来るとは思っていなくて。今は、民間だけでなく行政も、働き方を考えている時代なんだな、と」

 

まちづくりの視点で神山町に関心を持つ、行政や自治体の人たちの視察対応も仕事のひとつ。先日はなんと、視察にきた大臣も宿泊されたそうです。

 

まちの「止まり木」のような場所に

 

樋泉さんは、神山町というまちのなかでのWEEKの役割を「まちにちょっと近づける場所」と表現します。

 

「『WEEKは、人がいられる止まり木みたいな場所になれている、そういう存在だよね』と言われたとき、『そっか』と思って。うれしく感じました」

 

筆者が宿泊した日のごはんをつくってくれたスタッフのおふたり。

 

WEEK では、宿泊者全員で(ときには地元の人もまじえて)一緒に夕食を食べる「みんなでごはん」という企画があります。近ごろは、宿泊者を町内のレストランに案内するスタイルでの夕食もはじまりました。「まちにもっと触れてほしい」という願いから、今後はこのスタイルも増えていく予定です。

 

「食事をしながら、知らないお客さん同士が仲良くなっていくのを見るとうれしいですね。一人で来た若いお客さんと地元のおっちゃんが盛り上がっていると、なんだか地域に貢献できている気がします(笑)。お客さんも、地元の方と話せるのは楽しいと思いますし」

 

おいしいごはんでお腹が満ちて少しお酒も入れば、会話も進むというもの。しかも、WEEKに宿泊する人たちはすでに「神山」というキーワードを共有しています。それぞれに、自分が見て感じたことを言葉にしていくことで、その日一日の体験がすこし深まっていく。夕食の時間には、そんな作用もあるように思いました。

 

宿にいると「旅しなくても旅ができる」

 

グリーンバレーで働いていた頃にも、神山を訪れる人の案内役を務めていた樋泉さんですが、WEEKという「場」を持つことによって、来訪者との関わり方も変化しているようです。

 

「グリーンバレーで視察の方をご案内するときは、まちをぐるっと回って1時間ほどで終わりでした。でも、ここでは食事を交えて、お茶をしながら腰を落ち着けて話ができます。お客さんも、神山を体験したうえで、ちょっとリラックスした状態で話してくれます」

WEEK のダブルルームより。大きな窓のそばにあるデスクでも仕事できます。

WEEK のダブルルームより。大きな窓のそばにあるデスクでも仕事できます。

 

宿は、旅する人が一番長い時間を過ごす場所。一日の疲れを癒して心身を休める、仮の家です。一方で、まちにとっての宿は「まちの外からいろんな人がやってくる場所」。樋泉さんは、宿を舞台にした、予測不可能な人との出会いと関わりを、何よりも楽しんでいます。

 

「宿にいてよかったと思うのは、思いも寄らないところとのつながりから人が来たりして、世界が広がって、関われる範囲が広くなること。東京と比較して『田舎って刺激がなくてつまんないんじゃないの?』みたいなことを言われるんですけど、私はむしろこの宿にいるほうが刺激が多い。『そうきたか!』『そうくるか!』と、日々が刺激です」

 

「いろんな国の人も来るので、旅をしなくても勝手に旅ができているみたいな。前回のインタビューでも話しましたが、自分が行くときには行っただけの情報しかないけれど、ここにいるといろんな人がどんどん来てくれる。拠点を持つことの面白さをすごく体感しています」

 

樋泉さんは「思いも寄らないこと」が大好き。樋泉さんにとって、宿をすることは“滞在型の冒険”なのかもしれません。

WEEKらしいスタイルをつくっていきたい

WEEKスタッフと一緒に(2016年9月撮影)。

 

樋泉さんにとって、宿業も初めてなら、女将業も初めてのことでした。

 

「空間づくりは美術大学時代に学んでいたことなので重なることはありましたが、女将業は初めてのことで、宿を回していく立場になったのは一番大きな変化です。何が正解かはわからない、だからこそ、みんなで試行錯誤して柔軟にいけたらと思っています」

 

宿をいとなむことは「宿泊者を預かる」ということ。そこには大きな責任が伴います。また、宿をいとなむということは、いつ、どこから来るかわからない宿泊者を待ち、いつでも迎えられるように準備することでもあります。

 

「宿泊者がいてくださってはじめて宿なので、その視点は忘れないようにしています。ただ、来訪者だけでなくスタッフたちにとってもWEEKでの仕事がそれぞれの道になっていってほしいと思うので、両方のバランスをとるのが大変なところです」

 

ときには、息抜きをかねて神山を離れて遠出し、“宿泊者”としてほかの土地で宿に泊まることもあるそう。

 

「たまに勉強のために気になる宿にも出かけるようにしています。横のつながりをつくっていきたいですし、スタッフも研修のために他の宿に住み込みさせてもらうこともしています。WEEKは“食”も大切な軸にしていますので、食に携わっている方のお話を聞くこともあります。自分たちらしい、この宿らしいスタイルをつくっていきたいです」

 

樋泉さんはじめ、WEEKのスタッフにとって、リピーターの存在は大きな手応えです。たとえば、仕事できた人が、次はプライベートの旅行でパートナーや家族を連れてきてくれたこともあるそうです。宿泊者が気に入ってくれる「WEEKらしさ」も、今後の宿のありかたを考えるうえでの手がかりになりそうです。

 

まちの資産としての「WEEK神山」を受け継いでいく

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WEEKの運営を行う「神山神領」は、“町民株主”というユニークな方法でつくられた会社です。代表は「えんがわオフィス」を開設した隅田徹さん、樋泉さんの旦那さまです。隅田さんは、主にWEEKの経営面を見る立場で関わり、ときには「みんなでごはん」にも参加されています。

 

「神山神領」の株主になってくれたのは、神山町と家主の南さんをはじめとした約50人のまちの人たち。「自分たちのまちで新しいことを始める人を応援しよう」と、出資をしてくれました。

 

「出資してくださった方々に何かしら気持ちを返そうと、一株につき一枚の“夕食優待券”、4枚で“一泊宿泊優待券”を配りました。夏には、1年目の株主総会を開いたときに、町民株主さんが応援して下さったんですね。この場所をつくることで関わる人が増えて、まちの人たちの楽しみにもなれているところがすごくうれしかったです」

 

樋泉さんには、「WEEKは神山の資産だ」という気持ちが強くあります。だからこそ、「いつかはWEEKを誰かに継承する」ということを、いつも心のどこかに置いています。

 

「この宿は町民立の、みんなの宿。WEEKも、“神山神領”という会社自体も、もしも継承できる人が現れたらそれは喜ばしいことなんですね。ここが続いていくことにつながるので。WEEKは、お客さんにとっての“実験の場”であると同時に、ここで働くみんなの“実験の場”という視点も同時にあって。『宿をやりたい』という人がいたら、ここで実践してもらえたらうれしいなと思っています」

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「思いも寄らなさ」に対して、「常に開いていたい」という樋泉さん。WEEKという拠点を持ってもなお、次の冒険に心を踊らせる準備はできているようです。最後に、神山に住みはじめて6年目、近ごろ感じているまちのようすについて聞いてみました。

 

「すごくいい方向にいっています。みんながそれぞれにやっていることが、ちょっと連携したり、くっついたり離れたり……少しずつ混ざってきている感じがします」

 

6年前と比べても「まちの動きの輪は広がってきている」と言う樋泉さん。今は、樋泉さん自身も、その動きを担う側の立場へと移り変わりつつあります。そして、神山の“顔”のひとりに。でも「神山の“顔”」だなんて本人に言えば、きっと「そんな、全然!」と顔の前で手を振られそう。

 

でも、あくまでも、「フラットでいること」を大事にするその感じに、やっぱり“神山の人”らしさを感じてしまうのです。

 

かみやまの娘たち
神山つなぐ公社

2016年に策定された創生戦略「まちを将来世代につなぐプロジェクト」の実現に向けて設立された一般社団法人。連載「かみやまの娘たち」では、つなぐ公社で働く女性たちを中心に、神山で生きる女性たちをインタビュー。記事制作は、神山在住のフォトグラファー・生津勝隆と、京都在住のライター・杉本恭子が担当しています。

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