COLUMN
かみやまの娘たち

 

ここ徳島県・神山町は、多様な人が
すまい・訪ねる、山あいの美しいまち。

この町に移り住んできた、還ってきた女性たちの目に、
日々の仕事や暮らしを通じて映っているものは?

彼女たちが出会う人・景色・言葉を辿りながら、
冒険と日常のはじまりを、かみやまの娘たちと一緒に。

写真・生津勝隆 文・杉本恭子 イラスト・山口洋佑
 

vol.27 「自分を問うことが、自分を信じることにつながった」〈徳島県・神山町〉

INTERVIEW 神山つなぐ公社/赤尾苑香さん(すまいづくり担当)

神山つなぐ公社のすまいづくり担当、赤尾さんとは10か月ぶり、5回目のインタビュー。この3年間、わたしたちのインタビューは、ふたりの間に浮かんでいることを言葉に置き換えていく、真剣な共同作業の時間でした。そして、この時間をふたりともすごく大事に思っていました。

 

「ちょっとひさしぶりですね」と顔を合わせることが、すでにうれしい。

 

今回は、赤尾さんの仕事というよりも、ご自身の変化に焦点を当ててお話を伺いました。

 

「変わりたい」から、
「変わらなくてもいい」へ

 

赤尾さんは、独立したとき、「自分を変えたい」という気持ちがありました。最初のインタビューで聞いたこの言葉を、今も思い出します。

 

「自分で考えて、自分で決めて、自分で責任を持つということをやりたい」。

 

公社での3年間は、赤尾さんにとってまさに「自分で考えて、自分で決めて、自分で責任を持つ」ことの積み重ねだったようです。

 

「そうでしたね。ただ、今はもっと前向きな意味合いで、『自分で考えて、自分で決めて、自分で責任を持ちたい』と思っています。『自分がいやだから変えたい』と思っていたあの頃とは、気持ちの、エネルギーの放出の仕方が違うというか。

 

今のこの環境にいると『変わらなくてもいい』と思うようにもなっていて。

 

自分のなかでも、『あの頃の自分とは違う。少なからず良くなっているな』ってたしかに思うんです。でも、よくよく思うと、変われたというよりは、きっともともとそういう自分もいて、『ようやく出てきたか!』なのかもしれません。

 

そう思えたのは、やっぱり人の影響はすごい大きい。近くで仕事をしている人たちはもちろんですけど、今この町で暮らしている人たちとの出会いも、何かを考えていくときのベースになっていたと思います」。

 

神山出身だからこそ、
感じていたプレッシャー。

 

神山町で進んでいく、新しい動きを追いかけながら、「もし、神山が自分が生まれ育った町だったとしたら?」とわたしはいつも考えていました。

 

あるいは、わたしが神山に移り住んでこの動きをつくる側に参画していたとしたら? 自分に置き換えて想像しながら、インタビューで向かい合う人の状況を聞いているところもあります。

 

神山つなぐ公社のメンバーのなかで、神山町で生まれ育った人は実は少数派。移住してきた仲間たちのなかで、神山出身であるからこその葛藤や、町の人たちへの理解というものが、赤尾さんにはあったのではないか?と思っていました。

 

今回、わたしは、今まで聞けなかったこの問いを初めて口にしました。

「ここは自分の町だなという誇りは大いにあります。だからこそ、少なからず強みがあるとか、安心感があるから頑張れる……ということはないですね!

 

なんていうかなぁ。そんなに意識したことはないかな。

 

この間も、徳島県内の他の町から視察にきた先輩が、『よそでバリバリやってきて移り住んできたような人たちと一緒にやっててすごいねえ』みたいな感じで言ってくれたけど、たしかに、精一杯やってきました。

 

公社には、いろんなところでお仕事をしてきた、錚々たる人たちが集まっています。自信がなくて『変わりたい』と思っているような自分が、この人たちと対等にお仕事としてちゃんと一緒にやっていけるのかなというプレッシャーはありました。『本当に私でよかったのかな?』って思っていたし。

 

でも、何かこう自分の持っている何かを、いつからか信じられたからできたことは、少なからずあるかもしれません。

 

創生戦略が始まって、地元で新しい動きが起きることに対して、地元の人たちにはいろんな、複雑な気持ちがあります。私は動きをつくる側にいるけれど、町の人たちの戸惑う気持ちもわかる。本当に本心からどっちもわかるんですね。

 

『何をしようとしているのかわからない』と町の人に思われたまま、誤解をされたままになるのは、お互いにとってすごい寂しい。何か、ちょっとでもそこを埋めたくてつくったのが『集合住宅だより』でした。

赤尾さんは、手書きでプロジェクトを解説する「集合住宅だより」を2017年8月から1年間12回発行。町民全世帯に配布しました。

もう今は、プレッシャーや引け目だったりしていたものも、楽しもうという感じ。『あっちゃー、できてない!』『あー、みんなこうするんじゃ。すごーい!』と思うことを楽しもうと、だんだん思えるようになりました」。

 

4年目からは、もう
遠慮しないでやろう。

 

3年前は計画段階だった「大埜地の集合住宅」は二期工事が竣工。民家改修プロジェクトで再生した「西分の家」「寄井の家と店」の運用がはじまっています。赤尾さんの仕事も、やっとひと段落というところ。「これからの動きをより良いものにするために、振り返りを行う」ことができる、少し落ち着いた状況を迎えているようです。

 

「集合住宅の設計も一段落して、民家改修の方もハードの整備はいったん止めて、これからは運用をしっかりやっていくことになります。そこで、すまいづくりチーム3人の役割分担についても明確にしました。集合住宅や西分の家の共有部の運用は遠藤さん、入居関連は高田さん、ハードに関するあれこれは私というように、すまいに関するプロジェクトを横断的に見ていくかたちに。

民家改修プロジェクト「寄井の家」に入居した「豆ちよ珈琲焙煎所」にて。

やっぱり、自分が関わってきたものに対しては、どれもすごい愛着があるというか。すごい大事に思っているので、関わり続けたいし責任を持ってやり遂げたい。力を尽くしたいと思うんですね。

 

今まで、たぶん欲張りだったんでしょうね。『どれもこれも、大事なんですー!』って自分でやろうとしていたんですけど。

 

仕事量的にひとりでやるのは無理になったとき、『本当にその仕事をするのは、自分である必要があるのか?』をすごい考えて。手を離して得意な人と協働していく方法を選ぶに至りました。そうなると、集合住宅プロジェクトの初期から携わってきた自分自身はプロジェクト・マネージャーみたいな立場で、プロジェクト全体をしっかり見ていくという方向性も大きく出てきたんです。

 

振り返ってみると、もっと早い段階で、プロジェクト・マネージャーの立場を自ら買って出るべきだったのかもしれません。遠慮せずに、もっと主に立ってやっていけばよかったと、改めて反省点として思うこともあるというか。

 

じゃあ、”あの頃の自分”にそれができたかというと、やっぱり今やから言えることやと思うんです。自分にとって、必要な過程だったんだろうな、と。

 

今は、目の前のことに着実に取り組んでいくことに精一杯ですけど。でも、同時に考えているところですかねぇ。

 

『さあ、4年目はどういこうか?』 と」。

 

自分の気持ちを、
自分でていねいに聞く

 

「さあ、4年目はどういこうか?」という赤尾さんの言葉は、とても力強いものでした。自分の手で舵を握って、この町の進むべき航路を見定めようとしているような。

 

少なくとも、出会った頃の赤尾さんは、こういう言葉を発する人ではなかった。でも、赤尾さんが言う通り「もともとそういう赤尾さんがいた」のだと思います。それにしても、どうやって「ようやく出てきた!」ということが起きたのですか?

「やっぱり、これも公社のみんなからの影響は大きかったと思います。

 

理事の杼谷さんや西村さんは、本当にていねいに一人ひとりが今どう思っているかを聞いて大事にしてくれます。一個一個立ち止まってくれて『赤尾さんはどうなの?』って尋ねてくれる。すると、自分は何を思っているのか、どうしたいのか、自分を問わざるをえなくなるんですね。

 

『相手がどうしたいかを考えすぎて、ノーと言えない』というのは、よくよく考えるとすごい楽な道なんです。相手のことを思えているようで、実は全然自分で決めていない。人からどう見られるか、相手がどうしたいかを優先して、自分で自分の気持ちを全然聞いていなかった。

 

遠慮せずにもっと主に立ってやればよかった、というメラメラした感じも、きっとひとつのきっかけですかね。

 

あともうひとつ、城西高校神山校の生徒たちとの『どんぐりプロジェクト』も、私のなかでは大事だったなと思います。これがまた、高校生から教えてもらえることがすごいたくさんあって。『ああ、出てきたね。私』っていうのを、引き出してくれた感じです。

 

高校生や子どもたちには、悪い意味じゃなくて、本当にこっちのことを見透かされているかもって思うんです。

 

自分にバリアがあると見抜かれるから、彼らとの関係が進まない。それがわかったときに、もう真っ裸な自分でぶつからんと全然やりとりができないし、一人の人間として自分をさらけ出すしかないなと思ったというか。人の目を気にしてたけど、子どもたちにもすごい気を使っていたんですよ。

 

今はもう『よお!』くらいの感じで楽しくつきあっています」。

ずっと解けない問いが
まだふたつあるんです

 

お話を聞くと、赤尾さんはこの3年間でやっぱりずいぶん変わったのだなと思います。でも、初めて会ったときから、赤尾さんの印象は全然変わっていません。

 

はにかむようなところはあったけど、その向こう側にはおてんばで芯の強い感じも見えていたし。彼女が言う通り「ああ、出てきたね」という感じなのだろうな、と。

 

そういえば、最初のインタビューのとき、赤尾さんは「家にはいのちがあるし、ひとつの存在だ」と言っていましたよね? 自分が手がけている「家」に対する気持ちに変化はありますか?

「この3年間のことで言うと、まだ解けない問いが2つあって。民家改修と集合住宅の仕事をしながら、常に頭を巡らせているんです。

 

ひとつは、大工さんたちの『手刻み』の仕事はなぜ必要なのか?ということ。今の家づくりでは、『プレカット』という技術で工場で加工された木材を現場に運び込んで、指定されたように組み立てるのが主流です。

 

『手刻み』では、大工さんが一本ずつ木を自分の目で見て、頭のなかで『この木はどこに、どの向きに、どう使うか』を考えながら自分の手で刻んでいくんですね。本当にうまくいくかは、当日実際に建て方をやってみないとわからない。自分の手でした仕事だからこそ言い訳もできないし、大工さんたちはすごい緊張するらしいんですけど。

 

そういう感じでやっているから、『手刻み』は『プレカット』に比べるとどうしても割高になるんです。だから、最近は、『手刻み』する機会すらなくなりつつあります。

 

機械化のよさがあるのは前提の上で、今回の集合住宅づくりでは『手刻み』での工法にこだわったのは、大工さんたちの技術継承の機会をつくるためでもありました。それは、自治体や地域の大事な役割でもあるだろうとは思う。でも、これだけではまだ、自分が完全に納得する答えじゃないんですよね。

 

もうひとつは、『なぜ、古い民家を改修するのか?』という問いです。壊して新しく建てたほうが安いのに、なぜお金をかけてまで改修するの?という率直な問いも耳にすることがあって、でもまだ自分のなかでスッキリする答えが見つかっていません。

 

なんかこう、単純に技術が残ればいいということじゃないと、だんだん思ってきて。私がもっと大事にしたいのはその奥にある気持ち。木と向き合って刻む大工さんの気持ち、職人としての誇り、やりがいみたいなものなんです。古い家は当時の職人さんの仕事が生き続けていて、時間の経過の中でしか生み出せないものがある。どんなものでも新しいものにぱっぱと切り替えていくんじゃなくて、何かそういう気持ちの方を大切にしたいよなーと思っています。

 

かといって、新築が良くないということではなくて。生み出していくものに対してちゃんと向き合えるのかどうか、だなぁ。まだ、言葉にはならないんですけど、もうしばらく考え続けたいと思います」。

 

 

今回のインタビューでは、赤尾さんの言葉に何度もどきっとさせられました。

 

はじめの、「自分を変えたい」ということが、ポジティブなものに変わっていくというプロセスのあたり。それから、「相手を優先しているようで、何も自分を決めていない」というところ。うわー、私にもそういうところがあるのかも……とひやっとする気持ちにもなりました。

 

ちゃんと自分を問うことをしている人の言葉は、聞く人自身をも問う力があります。赤尾さんから受け取ったまっすぐな問いを、わたしも自分に向けつづけたいと思います。

 

次のインタビューは、たぶん1年後くらいかな?

今度は、どんな話をするのだろう? もはや想像もつかなくなってきたことに、とてもワクワクしています。

 

 


 

赤尾さんのこれまで

 

▼第一回目(2016.12.15)
「家は、住む人たちと共に生きて、ふるさとの風景になる」

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▼第二回目(2017.06.19)
「鮎が川に帰るには? あたらしい集合住宅づくりの話」

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▼第三回目(2018.02.08)
「町に住む5464人に宛てた“手書きのおたより”」

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▼第四回目(2018.07.23)
「神山の暮らしに寄り添う「まちの建築士」でありたい」

 

 

 

 

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かみやまの娘たち
杉本恭子

すぎもと・きょうこ/ライター。大阪府出身、東京経由、京都在住。お坊さん、職人さん、研究者など。人の話をありのままに聴くことから、そこにあるテーマを深めるインタビューに取り組む。本連載は神山つなぐ公社にご相談をいただいてスタート。神山でのパートナー、フォトグラファー・生津勝隆さんとの合い言葉は「行き当たりバッチリ」。

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