ある視点
vol.32 その瞬間が充実していれば、きっとうまくいく。
ちょうど1年ぶりになった、秋山千草さんとのインタビュー。
とてもお天気のよい日だったので、川へ行くことにしました。
夏のあいだは川遊びにくる人も多いのですが、さすがに秋の平日は誰もいません。ゆったりと流れる淡いエメラルドグリーンの水を眺めながら、秋山さんの声に耳を傾けていました。
「去年の10月は、初めて担当した『神山町国際交流プロジェクト』が終わったばかりで。オランダ訪問のことや、阿波踊りが気持ちよかったことを話したんですよね」
たった1年前のことなのに、すでに秋山さんは「そんなこともあったなー」という感じ。あれから、秋山さんはどんなふうに過ごしていたのでしょう? この1年間に起きた変化と、現在のようすを聞かせていただきました。
いきなりピンポン?
神山流の求人募集のコツ
昨年のインタビューの後、秋山さんは2019年春に向けて城西高校神山校(以下、神山校)の寮の立ち上げに取り組んでいました。寮の名前は、神山町を流れる鮎喰川の「あゆ」をとって「あゆハウス」。寮生同士はもちろん、神山町内外のさまざまな人たちと触れ合いながら、高校生が育ちゆく場にもしたいと、秋山さんたちは考えていました。
お話は、あゆハウスで高校生の暮らしや興味・関心をサポートする、ハウスマスターを探していたときのことからはじまりました。
「去年の10月から今年の2月までは、ハウスマスターになってくれる人たちを探すのに奔走していましたね。神山での人探しは、東京と同じやり方ではできなくて。とにかく困っていることを周りに伝え、紹介してもらい、可能性のありそうな人にどんどん当たっていきました。
地元の人から『あの人はやってくれるかもよ』と聞いたら、その人の家を地図で探して『ピンポーン!』って直接訪問。『今度、高校生の寮をはじめようと思っていて、この人に紹介してもらって来ました。どうですか?』って話して、断られて、みたいな。でも、この探し方でひとり引き受けてくれた人がいるんです。元保育士さんで子育てをしているお母さんだから、彼女の視点はすごく大事だなと思っています。
ほかには、公社や役場の人たち、岩丸潔さん(*)などにも紹介してもらったり、元地域おこし協力隊の人たちに声をかけたり。ハウスマスターには多様性がほしいと思っていたので、年代や性別の違う人たちを集めることも意識しました。
常勤のハウスマスターになってくれた、荒木三紗子さんが見つかったのは年末くらい。荒木さんは、私も参加したひとづくり担当を募集する3days meetingにも来ていたんです。ちょうど仕事を辞めるらしいって噂を聞いて大阪まで会いに行って、神山にも来てもらっておいしい冬の味覚でもてなして。結局、彼女が決断したのは2月だったので、新学期がはじまるギリギリまでドキドキしたのですが、いやぁ、よく来てくれたなと思います。
あゆハウスが始まってもう半年ですか。当時は全然人が見つからなくて苦しかったけど、今考えると荒木さんはじめいろんな人たちのタイミングがよかったな!と思います」
*岩丸百貨店店主、元NPO法人グリーンバレー理事。神山町に移り住む人たち、訪れる人たちに集い場を提供してくれる人。
“公社の秋山”
ではなくなったあの日
2019年4月、4人の新入寮生とハウスマスターたちが揃ってスタートしたあゆハウス。立ち上げ準備にかかりきりだった秋山さんにとっても、初々しい春のはじまりになりました。
また、ハウスマスター探しをまちの人たちに手伝ってもらったことによって、秋山さん自身にもちょっとした変化が起きていたようです。
「そうそう、仕事の話じゃないんですけど、けっこう私のなかで大きかったのは岩丸さんの家でひらく飲み会の幹事をしたことなんです。
たまたま岩丸さんの家で飲んでいたときに、初めて同席した人が3月で神山を離れるという話になって。岩丸さんが突然『送別会の幹事やったら?』って振ってきて、『え?私、全然関係性ないけど』と思いながら、酔っていたノリで『やります』って言ってしまったんですよ。
送別会の準備を一緒にしていた人たちと仲良くなって、当日来てくれたいろんな人たちとも仲良くなって。送別会の司会をしているのを見た人には『秋山さんて、こういうキャラだったんだね』と言われたりもしました。
実は私、すごい人見知りなんですよ。表面的にはすぐにぱっと話せるんですけど、素を出すのに時間がかかるタイプで。まぁ、お酒を飲めば出るんですけどね(笑)。
その頃までは、“神山つなぐ公社の秋山”としてここに住んでいたんですけど、“自分”として神山の人たちと関わりはじめるきっかけを、岩丸さんにもらったと思っています」
まちの行事になってきた
3年目の神山町国際交流プロジェクト
2017年から始まった、神山町に住む中高生および神山校に通う生徒を対象とする「神山町国際交流プロジェクト」。秋山さんは今年も同プロジェクトを担当し、7人の高校生と2人の中学生とともにオランダを訪問しました。
初年度に森山円香さんらが立ち上げてから、わずか3年目にしてすっかり「まちの行事」として定着しつつあるよう。今年はどんなようすだったのでしょう?
「今年のオランダ訪問は、中高生が仲良くなりすぎちゃって。彼らだけで楽しんでしまうところがあったんです。そこで二日目に、『せっかくオランダまで来たんだから、もっと貪欲にインプットしてほしい』って喝を入れたんですよ。そしたら彼らの態度がガラッと変わって。
三日目は、地域のスーパーなどから廃棄される食材を購入して調理する『Instock』というレストランに行ったんですけど、ワークショップまでの空き時間に、何も言わなくてもみんな立ち上がって店内の見学をはじめたんです。ちゃんと伝わってる感じがしてうれしかった。なかには、何を見たらいいかわからないけど、『とりあえず動かなきゃ!』ってうろちょろしてる感じの子もいておもしろかったです。
訪問後は、オランダの子どもたちが神山町にやってきます。昨年までは訪問と受け入れは担当を分けていたのですが、今年は私も受け入れに関わることにしました。今年のオランダでは、『昨年、神山の人たちにもてなしてもらったから』と素敵な時間をつくってもらったのがうれしくて。私も関わることでおもてなしの循環をつくっていけたらいいなと思ったんですね。
そしたら、すごいタイミングよかったんですけど、初日に町内のイベントで桜花連(神山町の阿波踊りの連)が踊ることを聞きつけて。徳島駅から神山に向かう途中で、バスを降りて見てもらうことにしました。連長さんが『今日からオランダの子どもたちが神山に来ています』とアナウンスしてくれて、『ナイス!連長!』と思っていたら、偶然そこにいたオランダ人の方がそれを通訳してくれて。まち全体で迎え入れようとしている感じを伝えて、気持ちよくはじまりました。
過去にオランダを訪問した中高生とその家族、受け入れ時のホストファミリーになってくれた経験者が増えてきているから、一般公開イベントとして行ったバーベキューのときなんかは、準備や片付けを大勢で手伝ってくれて。もう、公社だけがプレイヤーじゃない。みんなでつくった感じがすごいありましたね。
バーベキュー大会には、中高生も70人くらい来てくれたのかな。私自身、あんなに中高生がまざりあう公のイベントは初めて見たので驚きました。そういう場になってきていることもおもしろいなと思っています」
神山には安心して
失敗できるチャンスがある
「最近は中高生と過ごすのがすごい楽しくて、大人なのに」と笑う秋山さん。あゆハウスの寮生たちとの時間を心から楽しんでいるようです。中高生たちと過ごしているときの楽しさってどんな感じなんですか?
「4月は、荒木さんと私は、もうあゆハウスにつきっきりで。毎日、寮生が自分たちで食事をつくるんですけど、包丁をほぼ握ったことがない子もいて、初日はチャーハンをつくるのに3時間かかる、みたいな。そんなドタバタなはじまりでした。
あゆハウスには、最初からまちの人に混ざってもらうようにしているので、フードハブ・プロジェクトの細井恵子さんにカレーのつくり方を教わったり、そこでアルバイトしている神山校生に料理を教えてもらったりしていましたね。
学校の枠を超えて、まちの若い人と大人が混ざり合う、簡単に集まりあえるつながりが、プログラムではなく自然な状態で起きる。私が神山に来てやりたかったのは、そういう感じのことでした。最初のステップになるつながりをつくるなかで、『これは自分が思っていたものに近いな』と思って過ごしていました。
あと、中高生ってみんな、オープンで自分をさらけ出すじゃないですか?そういう子たちの前だと、自分もオープンになれるから、彼らといる空間はすごい楽しいんですよ。
もちろん、トラブルやハプニングも起きるけど、そのたびに真剣に一人ひとりと向き合いました。ちゃんと自分の気持ちもさらけ出すし、相手の話もちゃんと聞きたい。そういう場って、実はあんまりないなと思っていて。やっぱり、14、5年生きているなかで積み重なったものはすぐには変わらないから、そこも含めて受け入れていきたいんですよね。
受け入れる器のある大人たちに囲まれていたら、いくらでも失敗できるチャンスがあります。神山のなかで失敗するぶんには誰かが守ってくれる。私も、何があってもどしんと構えるというか、『何があっても大丈夫』って言葉ではなく雰囲気で表せる人でありたいなぁと思っています」
”自分のワクワク”にそって進んでいける
感覚がつかめてきた
中高生と同じくらいオープンになって過ごしつつも、「大人としてどうあるべきか?」を考えるあたり、大人でも子どもでもない、秋山さん個人としてのあり方を問うているのかなと思いながら聞いていました。
秋山さんは、前職の放課後NPOアフタースクールでも、地域で子どもを育てていく場づくりに関わっていました。神山つなぐ公社のひとづくり担当として1年半働いてみて、前職とのちがいを感じることもあるのでしょうか?
「枠がないというか、『おもしろそう、それ!』って思ったら動いてもいい感じがあるのかな。たとえば、国際交流プロジェクトに参加した高校生の『カフェをやりたい』という言葉をきっかけに『じゃあ、料理教室からはじめてみる?』っていう話になったりとか。
何が起きるかはわからない。けど、集まる予定のなかった子たちが集まる機会をつくってみたら、なんか楽しそうだなと思っていて。
いろんな年齢の人たちが、学校の枠を超えて時間を共有することで、新しいつながりができることにけっこう意味があると思うんです。国際交流プロジェクトから広がるものがどんどん生まれる、あらかじめ決められた目標に向けてではなく、“ただワクワクする”ことをやっていけるのがすごいおもしろいです。
そうそう、今年の文化祭ではちょっとわがままも言ってみました。『もっと自分たちで楽しいことをしてワクワクしたい』という気持ちを2年生の男子にぶつけてみたんです。
そしたら、『準備はたくさんできないけど、まちの人たちが演奏して、僕らが歌うとかできたら楽しそうです』とアイデアをもらって。さっそく町の人たちに呼びかけると、意外にもいい感じに乗って来てくれ、神農祭バンドが結成されました。
ボーカルは2人だったのですが、最終的には、1、2年生がダンサーとしてたくさん参加し、会場も人でいっぱいに。高校時代を行事に生きていた私としては、高校生に戻ったみたいでめちゃくちゃ楽しかった!
結局のところ、与えられたことを受動的にやるよりも、「できるかわかんないけど、おもしろそう」とか、人と人のつながりのなかで経験する。あとは、まずやってみたところでの失敗とか発見にこそ、腑に落ちてくる学びがあるなぁと思っていて。自分の経験からも、いろんな人が混ざり合うことに意味があるんだという感覚はあります。
来年竣工予定の『鮎喰川コモン』には、中高生が集まれるまちの部活をつくりたいという話もあって、一応それも意識しながらコミュニティを育てていきたいとは思っています。そういう目的やゴールみたいなものもあるけど……なんだろう?
そのために計画して順番を決めるだけじゃなく、寄り道できる感じがおもしろいのかも。公社のメンバーは、『いいんじゃない?』ってそれをやらせてくれますしね。
今年は週一回、前職の放課後NPOアフタースクールのほうで、淡路島でのアフタースクール立ち上げを手伝っているんです。そこでも、この寄り道スタイルでやっていて、結果的にちゃんといい方向に向かっている感じがあって。他でも、このスタンスでやっていけたら気持ちいいなと思っています。
先日、女優の八千草薫さんが亡くなられましたよね。私の名前が”千草”だから、ちょっと意識していたんですけど。ニュースで紹介されていた、八千草さんの昔のインタビューで『瞬間をきちんと生きる』と言われていたんですね。それを見て、高校生のときの自分は『今を生きる』を大事に思って、その日その日を生きていたことを思い出しました。
その瞬間、今を充実してちゃんとやっていたら、結局うまくいくし自立する。それをもう一回意識して、むしろ無意識になるくらいの感じで過ごしていけたらなと思っています。そのときどきの『やりたい』『おもしろそう』『楽しそう』という気持ちを、自分でも受けとめられる状態でいたいですね」
◆
インタビューの後、「自分のコンディションがすごくいいタイミングで話を聞いてもらえた」と言ってくれた秋山さん。最初のインタビューのときに「自分のあり方を整えたい」と話していたことが、着々と進んでいるようです。
なんだか、秋山さんのなかにとても気持ちのいい風が吹いているような感じ。ひとこと、ひとことが、川面に映る光みたいにきらめいていて、なんだか私もうれしくなってしまいました。
この続きを聞かせてもらうのは半年後。もう、すでに楽しみです。
秋山さんのこれまで
▼第一回目(2019.02.20)
「自分の枠を外し、あり方をととのえる環境を求めて」
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杉本恭子
すぎもと・きょうこ/ライター。大阪府出身、東京経由、
京都在住。お坊さん、職人さん、研究者など。 人の話をありのままに聴くことから、 そこにあるテーマを深めるインタビューに取り組む。 本連載は神山つなぐ公社にご相談をいただいてスタート。 神山でのパートナー、フォトグラファー・ 生津勝隆さんとの合い言葉は「行き当たりバッチリ」。
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